東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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  • 2019.05.07
  • 長井研究室

エネルギー利得向上への新設計
―有機光エネルギー変換材料―

 有機半導体を水中や気相中に置いて、光照射すると光触媒作用が得られる。有機半導体の幅広い吸収波長の可変性により、可視光や近赤外光への応答も容易である。汚れの分解,消臭・脱臭,抗菌・殺菌,有害物質の除去などのいわゆる環境浄化型光触媒の形では、高効率に働くことが実証されて、実用応用の検討が進んでいる1-3)。高分子膜との複合化とその積層により、ハイスループットのリアクターの構築が可能である。また、マイクロ流体デバイスにより、低コストに大量生産することも可能である。光吸収に対する反応速度の比である量子収率はp-n接合体とすることで高めることができる。外部電圧を加えたバイアス存在下では水の水素と酸素への分解も実証されている。有機半導体の幅広さにより、可視全域の光エネルギーを吸収して利用できる。

Fig01jp.jpg

図1 p-n接合型有機半導体光触媒の原理図

 p-n接合一般に言えることであるが、吸収された光子エネルギーに対して、出力の電位差が小さくなる。これは図1の電荷分離過程での損失が大きいためである(代わりに速度論的にはこれがメリットとなるのだが)。今回紹介したい研究は、この問題に取り組んだものである。結論から言うと、p-n接合を反応物質と接する面内方向に形成させるがこの損出を抑制することがわかった4)

 一般に物体の表面に近づけた電極と物体の裏側を導線で短絡(ショート)させると、2物質間の電位差(接触電位差)によって表面が帯電する。この帯電を打ち消すように逆向きの電位を与えるケルビン法によって、接触電位差や仕事関数を調べることができる。有機半導体のケルビン法による測定により、有機半導体の接合における電位構造は教科書に書かれている無機半導体のそれと大きく異なることが明らかになっている。さらに、近年めざましく発展するケルビンフォースプローブ顕微鏡を用いると、微小領域の電位分布を測定することが可能である。

 この手法により、有機薄膜太陽電池の断面の電位構造が盛んに調べられており、注目を集めている。我々は、太陽電池などの構造に相当するp-n接合の断面ではなく、太陽電池の構成には一見役にたたなさそうな水平面にp-n接合を形成させて、その電位構造をケルビンフォースプローブ顕微鏡により観測した。その結果、図2のように接合線付近に0.1V程度プラス側にシフトした極大値が現れることが明らかとなった。この結果は再現性が高いだけでなく、類似の物質に変えた場合でもp-n接合部分で観察された。

Fig02jp.jpg図2 ケルビンフォースプローブ顕微鏡によって明らかとなった面内方向p-n接合部分の電位構造。接合線に沿って0.1 V正な電位の極大値が現れている。

 この電位は0.1V分の酸化力が増強されたと解釈することができる。そこで、この接合線の多くなるp-n接合体をマスク蒸着により作成し、その光電気化学特性や光触媒特性を調べた。図3のように、光電気化学実験の結果は実際に、0.1V少ないバイアス電位でも光照射時に酸化電流が見られ、光触媒実験の結果でも酸化生成物の増加が観察された。

Fig03jp.jpg図3 面内方向p-n接合部分の多い(b)では、0.1V少ない過電圧で酸化がおこっている。(a)や(c)と比べるとp型やn型の面積の差では説明できない。

 この設計は素材を全く変えずに、マイクロサイズの接合を変えるだけで起こる興味深い方法である。また、他の有機半導体分子を用いても同様の効果が期待できるので、エネルギー利得向上へ向けた新しい光触媒設計法として重要と考えている。

参考文献

  • [1] 長井圭治
    "水やアルコールに分散可能なナノ粒子型有機光触媒(J-cat)によるにおいの除去"
    フレグランスジャーナル 46 (9), 26-31, (2018).
  • [2] 長井圭治
    "臭いの評価法と最新消臭・脱臭技術 事例集"分担執筆
    技術情報協会 第6章 第5節  "有機光触媒 J-catによる消臭と、低コストに大量合成する技術" ISBN 978-4-86104-731-2 (2018) p193-197.
  • [3] 長井圭治
    "光機能性有機・高分子材料における新たな息吹"
    第4編第6章「有機半導体を用いる可視光光触媒」 市村國宏監修 分担執筆 CMC press ISBN 978-4-7813-1414-3 (2019) p155-163.
  • [4] Mohd Fairus Ahmad, Motoya Suzuki, Toshiyuki Abe, Keiji Nagai*
    "Enhanced Oxidation Power as Photoelectrocatalysis based on Micrometer-Localized Positive Potential in Terrace Hetero p-n Junction"
    NPG Asia Mater., 10 (7), 630-641, (2018). DOI 10.1038/s41427-018-0058
  • [5] 2018.7.19 化学工業日報 4面
  • [6] 2018.7.27 科学新聞 2面

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