東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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  • 2020.11.19
  • 長井研究室

レーザーコンパクト量子線発生に不可欠な低密度、高繰り返しターゲット

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 虫眼鏡で太陽光を集光した経験はどなたもあるだろう。黒い紙を燃やそうとするがなかなか発火しない。原因は焦点が動いてしまうことかもしれないが、本質的には光を絞りきれずに集光位置の光強度が不十分なためだろう。レーザー光は理論的には無限小に集光することが可能なため、光強度は無限に大きくなる。現実のチャンピオンデータは10の22乗 (以下10^22と表す)[W/cm2]まできている。ここでは、2018年にノーベル物理学賞が与えられた、チャープトパルスという方法や巨大な回折格子、集光ミラーが用いられる。ここまで集光すると焦点に置かれた物質はレーザー光の電場によって電離してプラズマ状態になるだけでなく、レーザーの磁場との相互作用も相まって、電子が光の速度に近く(つまり相対論で議論すべき速度)まで加速される。こうした現象は通常は巨大な加速器によって作り出されるものであるのだが、レーザーを用いればそれをコンパクトにできるということである。大型加速器は基礎研究だけでなく、医療応用に展開されており、極めて短時間にガン治療ができるのだが、我が国には数カ所しか施設がない。レーザー式ではこれを全国に展開できる可能性がある。

 こうしたことを本気でかんがえると、(本気で考えた研究者は実際にはたくさんいて、ヨーロッパには、こうした施設が複数建設された。面白いのは、ルーマニアの施設で、東欧支援のインフラ整備としてEUの予算が使われたとのことである。)レーザー光一発照射(とはいってもその時間はフェムト(10^-15)秒からピコ(10^-12)秒である。)では、十分な量子線が得られず、何回も繰り返しでターゲットに照射して量子線を発生させる必要がある。ターゲットは高温に加熱されたのちは飛び散ってしまうので、繰り返し照射するには次のターゲットを焦点位置にセットする必要がある。最新のレーザー技術では、集光強度だけでなく、繰り返し頻度も高められており、1 kHzを超えて、比較的弱いレーザーであれば100 kHzのものが市販されている。つまり、開発しなければならない技術は高繰り返しに供給可能なターゲットだ(と筆者はかんがえた)。

 実は、ターゲットの密度はレーザーの吸収効率を大きく支配する要因である。レーザーの波長にもよるので、1ミクロンの波長の場合を述べると、電離電子密度(原子密度ではないことに注意)で10^19個/cm3がよい。完全電離した炭化水素(ポリエチレンなど)では10 mg/ccとかなり低い。この密度のスポンジは売っているが、レーザーの集光サイズを考えると穴のサイズが大きすぎて、市販のものは役立たない。集光強度を100ミクロン以下にしたいので、穴のサイズは100ナノメートル以下にしたい。この穴のサイズで10 mg/cm3の例はあまりない。触ると壊れるような力学強度ではレーザーの焦点に運ぶことはできないということにも気を遣う必要がある [1]。高繰り返しに対応するということは、こうした問題を全て解決して、なおかつ大量に製造して、焦点位置に kHzで運搬するということである。

 筆者は、これをシャボン玉のような方法でできるのではないかと考えて、長年検討を進めた [2,3]。近年の界面活性剤技術は素晴らしく進んでおり、真空中でも扱える薄膜が開発されているので、これを応用した。詳細は、東工大ニュース[4](https://www.titech.ac.jp/news/2020/046722.html)に書いたので、重複をさけたい。

 じつは、低密度高繰り返しターゲットの問題は、最先端半導体微細加工で使われている極端紫外線(EUV)光源開発で最後まで解決に苦労があった技術である。EUV(13.5 nm)発生では、スズ(Sn)が最もレーザーからの変換効率が高い。高繰り返し供給のためにスズを融解(融点が232 oCとあまり高くないのは幸運であった)して液滴とすることで 100 kHz供給が可能となった。低密度にするにはプレパルスと呼んでいる比較的小型のレーザーを照射して膨張させる。そしてちょうど最適の密度になった瞬間にメインのレーザーを照射させている[5]。

 筆者の考案した方法はプレパルスなしに低密度で連続供給が可能となるものであり、また、スズのように低融点である必要はなく、つまりどの元素でも対象にできるというメリットがあるものである。この研究をすすめて、EUVの次のレーザー量子線源の実用化に貢献したいと考えている。引用文献には、高繰り返しを目指した他のターゲット材料開発についても挙げた[6,7]。

参考文献

[1] Keiji Nagai, Christopher S. A. Musgrave, and Wigen Nazarov
"A Review of Low Density Porous Materials Used in Laser Plasma Experiments"
Physics of Plasmas, 25 (3) 030501, (2018). doi.org/10.1063/1.5009689 (open access)
[2] Christopher S A Musgrave, Shuntaro Shoji, Keiji Nagai
"Easy-handling minimum mass laser target scaffold based on sub-millimeter air bubble -An example of laser plasma extreme ultraviolet generation-" Sci. Rep., 10, 5906 (7 pages), (2020). DOI. /10.1038/s41598-020-62858-3. (open access)
[3] 2020.4.6 化学工業日報 1面
[4] 2020.4 東工大ニュース https://www.titech.ac.jp/news/2020/046722.html
[5] Gouta Niimi, Shinji Nagai, Tsukasa Hori, Yoshifumi Ueno, Tatsuya Yanagida, Kenichi Miyao, Hideyuki Hayashi, Yukio Watanabe, Tamotsu Abe, Hiroaki Nakarai, Takashi Saito and Hakaru Mizoguchi
"Update of development progress of the High Power LPP-EUV light source using a magnetic field"
Proc. of SPIE Vol. 11323 1132328
[6] Christopher S. A. Musgrave, Nan Lu, Rie Sato, Keiji Nagai
"Gallium-tin alloys as a low melting point liquid metal for repetition-pulse-laser-induced high energy density state toward compact pulse EUV sources"
RSC Advances, 9, (24) 13927-13932 (2019). DOI: 10.1039/c9ra01905g (open access).
[7] Keiji Nagai, Christopher S. A. Musgrave, Naoaki Kuwata, Junichi Kawamura
"Electrochemically Synthesized Tin/Lithium Alloy To Convert Laser Light To Extreme Ultraviolet Light"
ACS Omega, 3, (10) 12422-12427 (2018).
doi.10.1021/acsomega.8b01220 (open access).

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