東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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最新の研究

  • 2016.07.01
  • 長井研究室

分子の傾斜配列による電子輸送制御 *
彌田・長井研究室

分子の傾斜配列による電子輸送制御 *

光合成の電子伝達系は、Z-スキームとしてよく模式化されているように、酸化還元電位の異なる分子を連結し、電子は電位の高い所から低い所へ流れるように輸送されているように見えます。しかしながら素過程をよく見てみると、必ずしも電位差(ギブズ自由エネルギー変化)が大きな分子連結ばかりではありません。伝達箇所によっては、電位差がほとんどない平衡系であっても、担体ユニットの空間的な配列により逆移動を抑制し、電位差に相当するエネルギーロスのほとんどない輸送をほぼ100%の効率で達成しています。私たちは、このユニット精密配列に基づく電子リレーシーケンスを、分子デバイスに実装可能な形で人工的に構築することを目指しています。具体的には、電子受容体としてよく知られているビオローゲン(1,1'-二置換-4,4'-ビピリジニウム塩)を樹状に連結し、ユニットの空間分布に勾配を持たせることによるキャリア輸送制御について検討しています。

 分子を樹状に連結する「デンドリマー合成」は一般的に煩雑で時間がかかりますが、私たちは官能基の不活化と活性化プロセスを経る必要の無い簡便かつ迅速なビオローゲン樹状配列分子の合成法を確立しました[1]。次に、樹状構造の頂点部に電子供与体であるピレンを連結した一連の分子について、溶液中でのレーザー励起時間分解分光測定を行いました(1)[2]。その結果、樹状構造の世代の増加に従い、励起したピレンからの電子移動により生成するビオローゲンカチオンラジカルが長寿命化することを確認しました。さらに興味深いことに、光合成中心と同様、隣接したビオローゲン間のLUMO軌道を介した超交換相互作用に基づく長距離輸送を示唆する結果も得られています。

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<図1>

1. ピレンを連結した第3世代ビオローゲン樹状配列分子(a). 励起ピレンからの電子移動により生成したビオローゲンカチオンラジカル(600 nm)の過渡吸収減衰曲線(b). ビオローゲン樹状配列分子内での電子輸送模式図(c).

 ユニットの精密樹状配列がキャリア輸送制御に効果的であることが溶液系で確認できたことから、樹状配列分子の電極上への集積化について検討しました。第3世代のビオローゲン樹状構造の頂点部(A3)および基底部(B3)にアンカーユニットとしてω-メルカプトデシル基を導入し、溶液中での自己組織化挙動を調査したところ、構造特異的な単分子膜が得られることを見出しました [3]。2に得られた分子膜の原子間力顕微鏡像(AFM像)を示しています。A3では1分子に相当する大きさの粒子が緻密に集合した平滑な表面が観察できたのに対し、B3では部分的に会合した構造が観測されます。Au/単分子膜を電極とした電気化学測定を行い、算出した基板上のビオローゲン密度をもとに組織化構造をモデル化したところ、A3ではω-メルカプトデシル部が疎にAu上に結合し、接合部位から最も離れた位置にある縁部のビオローゲンユニットが密に組織化した単分子膜が得られていることがわかりました。一方、組織化部位が逆転したB3では、最基底部を構成する8つのビオローゲンが最密充填構造をとり、その他のビオローゲンが勾配を持って積み上がったピラミッド型であることが明らかになりました。すなわち、私たちはアンカーユニットの導入位置が異なるビオローゲン樹状配列分子の自己組織化により、Au上のビオローゲンユニットを分子レベルで精密に3次元配列制御することに成功しました。現在、これら単分子膜をナノ構造化した金属表面につくり込み、有機分子ユニットの空間分布勾配を動作原理に組み込んだプラズモニックデバイスの試作に取り組んでいます。

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<図2>

2. ω-メルカプトデシル基を頂点部(A3)および基底部(B3)に導入した第3世代ビオローゲン樹状配列分子が形成したSAMのAFM像とその模式図.

* 本研究は、ERATO彌田超集積材料プロジェクトのナノ接合グループ(河内岳大グループリーダー)の成果です。

参考文献

[1] Kawauchi, T.; Oguchi, Y.; Sawayama, J.; Nagai, K.; Iyoda, T. Macromolecules, 2015, 48, 8090-8097.
[2] Gong, Z.; Bao, J.; Nagai, K.; Iyoda, T.; Kawauchi, T.; Piotrowiak, P. J. Phys. Chem. B 2016, 120, 4286-4295 (ラトガーズ大学Piotrowiak教授との共同研究).
[3] Kawauchi, T.; Oguchi, Y.; Nagai, K.; Iyoda, T. Sci. Rep. 2015, 5, 11122.

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