最近の研究
光運動材料の設計と開発

― 光プラスチックモーター ―

#2008年4月 高分子材料部門

 

はじめに

 人間が行うさまざまな動作において,筋肉は必要不可欠なものであり,その動作は化学エネルギーを力学的仕事に変換することによって行われます。人間の骨格筋は,ミオシンとアクチンと呼ばれるタンパク質からなるいくつもの繊維で構成されており,ATPをエネルギー源とした分子レベルでの小さな伸縮運動を,幾重にもわたる高分子の階層構造により大きな力へと結びつけています。生体筋肉を模倣して造られる人工筋肉には,柔軟で強靱な性質と構造を持つ高分子が最適であり,これまでに人工筋肉を目指した外部刺激に応答する高分子アクチュエーターが開発されています。

 アクチュエーターの駆動源として熱や電気などの外部刺激が用いられていますが,現在のエネルギー枯渇問題の観点から,無尽蔵に存在する太陽光エネルギーを利用することが望まれています。光エネルギーを用いれば,アクチュエーターの遠隔操作が可能となり,光を照射するだけで動く光運動材料が達成できます。高分子材料部門では,架橋フォトクロミック液晶高分子の光運動特性について液晶配向の観点から紹介し,光運動材料への展開について研究しています1,2)

 

 

 

光屈曲性架橋フォトクロミック液晶高分子フィルムの開発

 

 アゾベンゼンを有する液晶モノマーに光重合開始剤を加え,配向処理を施したセル中で光重合を行うと,厚さ数ミクロン〜数十ミクロンの架橋液晶高分子(CLCP)フィルムを得ることができます。このフィルムに紫外光を照射すると高分子フィルムは光源に向かって90°以上屈曲し,可視光を照射するとフィルムは元の平坦な状態に戻ることを見いだしました(図1)3)。 すなわち,光エネルギーを直接力学的仕事に変換できる高分子を創出することに成功しました。照射波長を変えることにより高分子フィルムを自由自在に曲げたり伸ばしたりでき,しかも屈曲角度の精密制御が可能です。さらに液晶高分子の配向をボトムアップ的に精密制御する手法も開発し,ナノメータースケールで液晶配向がコントロールされたポリドメインフィルムと直線偏光を組み合わせると,屈曲方向を360°任意に制御できることを明らかにしました4)。液晶の分子構造,配向状態や液晶相が光運動に大きく影響することも見いだしています5,6)。さらに最近では,水素結合を利用することによりリサイクル可能な高分子フィルムの開発にも成功しました7)

 

 

 

多様な光運動を誘起可能な架橋液晶高分子積層フィルムの開発

 プラスチックフィルムの任意の部位にCLCP層を積層することにより,あたかも関節を有するロボットアームのような運動を誘起できることを見いだしています(図2)。関節の曲がる方向も液晶分子の配向方向によって容易に制御できます。

 さらに,CLCP積層フィルムをベルト状に加工し,光駆動プラスチックモーターについても検討しています。室温において紫外光・可視光を同時に照射することにより,ベルトおよびプーリーの回転に成功しました(図3)。このようにCLCP層を積層することによりプラスチックフィルムに光運動特性を付与することができ,回転・屈伸など多様な運動を誘起できることが明らかとなりました。8)

 

 

参考文献

1) T. Ikeda, J. Mamiya, Y. Yu, Angew. Chem. Int. Ed., 46, 506-528 (2007).

2) C. J. Barrett, J. Mamiya, K. G. Yager, T. Ikeda, Soft Matter, 3, 1249-1261 (2007).

3) T. Ikeda, M. Nakano, Y. Yu, O. Tsutsumi, A. Kanazawa, Adv. Mater., 15, 201-205 (2003).

4) Y. Yu, M. Nakano, T. Ikeda, Nature, 425, 145 (2003).

5) M. Kondo, Y. Yu, T. Ikeda, Angew. Chem. Int. Ed., 45, 1378-1382 (2006).

6) Y. Yu, T. Maeda, J. Mamiya, T. Ikeda, Angew. Chem. Int. Ed., 46, 881-883 (2007).

7) J. Mamiya, A. Yoshitake, M. Kondo, Y. Yu, T. Ikeda, J. Mater. Chem., 18, 63-65 (2008).

8) M. Yamada, M. Kondo, J. Mamiya, Y. Yu, M. Kinoshita, C. J. Barrett and T. Ikeda, Angew. Chem. Int. Ed., in press.

 

 

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