最近の研究

■有機半導体p-n接合体の新しい応用

― 全可視光応答型光触媒 ―

#2009年6月 集積分子工学部門 



はじめに―可視光応答型光触媒への期待―

 

 環境エネルギー技術,中でも太陽光利用技術の進歩が毎日のように新聞で取り上げられています。集積分子工学部門の源流にあたるエネルギー資源部門ではいまから30年も前に,有機化合物間の光誘起電子移動を要素とする人工光合成の先駆的な設計がなされました。資源化学研究所からは20年前にも,無機酸化物を基盤とする光触媒において,水の完全分解が報告されています。
  この十数年の間は,光触媒の応用が,酸化チタン(TiO2)による汚れの分解,消臭・脱臭,抗菌・殺菌,ガラス・鏡の曇り防止などの用途では実用レベルに展開されています。一方で,室内や水中などの光の強度の十分で無い場所でも作用する「可視光応答光触媒」の開発が求められています。現在の有機合成技術をもってすれば,可視領域に吸収を示す化合物を自由自在に得ることが可能ですが,それが安定な光触媒として働くとは考えられていませんでした。

 



有機半導体を用いた光触媒の開発

 

 われわれは,全く違う目的で有機半導体を利用する中で,これが意外に安定だと実感し,過酷な酸化還元反応の関わる光触媒としても用いることができるのではないかと考え,光電気化学の手法を用いた実験を弘前大学の阿部敏之准教授と共同で行いました。ここでは,光源として,紫外光を含まないハロゲンランプを,また有機半導体としてn型のペリレン誘導体(PTCBI)とp型のフタロシアニン(H2Pc)を用いました。光照射時間とともに,酸素と水素が1:2の量で検出される一方で,窒素は全く検出されず,この酸素は空気の混入ではなく,水由来の酸素であることが確かめられました。図では,助触媒として酸化イリジウム(IrO2)を用いた場合を示しましたが,フタロシアニンは中心金属にコバルトを用いた場合は,酸化イリジウムを用いなくとも酸素発生が起こります。この実験は,対極の白金と電極で繋ぎ,その間にバイアス電位が印加されますが,(1)可視域全域(750 nmまで)の光に応答すること,(2)水系で安定に酸化還元すること,特に酸素発生(水の酸化)が安定に起こること(言い換えれば酸素発生の条件でも安定である)が初めて確認されました。無機化合物でも(1,2)を同時に満たす現象が報告された例はありませんでした。

 

図1. 可視光照射水分解に用いた実験装置

 

 

高分子積層フィルム型無バイアス可視光応答光触媒の開発

 

 しかし,環境調和型光触媒(発熱反応型、汚染物の分解),水素エネルギーの利用目的としての吸熱反応型の水分解,いずれの目的を考えても,この実験は必要条件を満たすにすぎません。バイアス電位を付与しない場合でも光触媒作用を示すことが更に必要です。さらに実用的な展開を考えると,粉末状態の光触媒よりも,フィルム型で切ったり貼ったりできることも重要となります。
  こうした点を考えて,吸着能を有する高分子膜の上に有機p-n接合体を形成させた光触媒をデザインしました。これを用いて,悪臭物質の一つであるトリメチルアミンの分解を試みたところ,室内の蛍光灯程度の強度(100μW/cm2)の可視光照射でこれが起こり,完全にCO2にまで分解することを確認しました。
  この光触媒的分解は,可視光全域の光に対して起こるのは勿論ですが,気相中のトリメチルアミンだけでなく,水に溶解したトリメチルアミンに対しても起こります。有機半導体で問題となる長期的な安定性については検証中の段階ですが,少なくとも1ヶ月以上は初期の性能を維持しています。

 

図2. 水中で働く高分子積層フィルム型可視光応答光触媒。

可視光照射とともに、トリメチルアミンをCO2に分解。気泡が観察される。

 

ディスカッションのようす

 
 

 

参考文献

 

1) S. Tazuke and N. Kitamura, Pure. Appl. Chem., 56, 1269-1280 (1984).
2) T. Yamase and T. Ikawa, Inorg. Chem. Acta, 37, L529-L531 (1979).
3) A. Kudo, A. Tanaka, K. Domen et al., J. Catal., 111, 67-76 (1988).
4) K. Nagai, T. Norimatsu, N. Miyanaga, and T. Yamanaka, Fusion Sci. Technol., 41 257-260, (2002).
5) T. Abe, K. Nagai, M. Kaneko, S. Kabutomori, A. Tajiri and T. Norimatsu, Angew. Chem. Internl., 45, 2778-2781, (2006).
6) 長井圭治, 資源環境対策 44, 93-96, (2008).
7) D. Wohrle, M. Kaneko, K. Nagai, O. Suvorova, and R. Gerdes, Molucular Catalysts for Energy Conversion, Springer Series in Materials Science Vol. 111, Chap.11, pp. 263-297, (2009). Eds. T. Okada and M. Kaneko, Springer-Verlag, Berlin Heidelberg.

 

 

 

 

 
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