デンドリマーのポテンシャルプログラミング

高分子の骨格に金属を飾り付ける(錯形成)概念は「高分子錯体」として以前より精力的に研究が行われてきた分野です。しかし、従来の高分子錯体化学では、高分子自体が、分子量分布と繰り返し構造をもった連続体であり、その中に含まれる金属元素の個数は明確に定義することができませんでした。一方でデンドリマーは分子として一つのディスクリート構造体(無限構造を持たずそれ自体で完結した単一構造を有している)であり、分子設計が可能であることから金属原子の個数を決めてもう少しきれいに集積できそうです。しかし、そのままでは化学の常識にならって系はより乱雑になろうとする(エントロピーを増大させる)ので、精密に個数を決めて飾り付けることはできません。

常識を打ち破った放射状段階的錯形成

この常識に真っ向から反する非常に興味深い現象として、私たちはデンドリマーと呼ばれる有機高分子を基盤とした配位子を設計・合成し、多種の金属を個数と位置を精密に決めて配置できる精密金属集積を世界で初めて報告しました (Nature, 2002)。

私たちが合成したデンドリマーの内部には電子的な勾配が自発的に生起しており、これが駆動力になって金属をより内側へ集めようとする性質を有していることが明らかになっています。この手法の大きなアドバンテージは、様々な金属に対して錯形成の当量数を予めプログラムすることで簡単に、単一の集積構造を得られるという点にあります。従来の集積型錯体や自己組織化超分子、微粒子の化学はあくまで最終生成物の安定性に頼って超構造が勝手にできる化学だったわけですが、私たちの方法は当量数を任意に変えることによって連続的に、自在に構造や組成を制御することが可能です。従来より能動的に物質を設計(デザイン)し、それをプログラムすることで新物質を無数のバリエーションで創り出すことができる点が大きな特徴です。