バルセロナはご用心 (写真をリンクしています)

 一昨年スペインのヴァレンシア工科大学に1ヶ月半ほど客員教授として滞在した。朝9時頃研究室に行き、夜9−10時に帰るという毎日の繰り返しであったが、一度だけ土日を使ってバルセロナに行ってきた。朝7時10分発の特急列車に乗って約3時間でバルセロナに着いた。日本のJRより正確であった。2等に乗ったのだが、映画や飴玉のサービスがあり、料金は往復でわずか7680ペセタ(1ペセタ=約0.9円)であった。これが片道約350kmの特急列車の往復運賃である。日本の物価高を痛感した。

 バルセロナは広いので、ガウディ(1900年前後に活躍した建築家)に焦点を合わせて見て回った。普通、ある程度紹介記事を読んでから出かけるので、現地では現物を確認するだけで、特に感慨もないという事が多いのだが、今回はビックリした。その規模、創造力、精緻さに圧倒された。現在も建設中というサグラダファミリア教会では、本当に久しぶりに「ウワァー! すごい!」という感じになった。良く写真にも出ているので、トウモロコシのような建物はご存知の方も多いかもしれないが、実物はもっと精緻で感動的なものであった。ガウディの斬新さと教会としての荘厳さが本当にうまくバランスしている事に感心した。さらに、現在建っているのは教会の外壁に当たる所で、これから中心部の工事にかかることにも驚いた。100年後とか200年後とか言われている完成時にはどんな建物になるのであろう。この他にもグエル公園カサ・バトリョカサ・ミラ等ではビックリし通しであった。例えばグエル公園蛇行するベンチを初めとして、座っているだけで楽しくなるような公園であった。観光客の数もすごかった。以上、まずバルセロナで良かった点を書いた。次に、悪かった点である。というのは今回の1泊2日の旅行でスリに3回も遭ったのである。

 まず、1回目は旅行者を装って、道を尋ねるという手口であった。40才くらいのネクタイをしたおじさんが、私に「サグラダファミリア教会に行きたいのだが、道が分からない。教えてくれ。」と言って来た。最初は、「ライン5の地下鉄に乗れ」とか答えていたのだが、途中で「こいつは本当に道を聞く気があるのか」、「スパニッシュイングリッシュ(注1)をしゃべる男が何で道を聞くんだ」と思い始め、どうも様子がおかしい事に気付いた。それからは「No! I don't know. I am also a visitor.」とか言って、離れようとするのだが、つきまとって離れないので、「No!」を大声で連発しながら、交差点で信号待ちしている人達のところへ駆け足で近寄った。信号待ちしていた人達が何事かと思ってこちらを見ていた。後ろを振り返って見ると、私に道を尋ねていた男が、別の男と何か話をしながら、反対方向へ足早に遠ざかる所であった。やはり仲間がいて、こちらが説明に気を取られている隙にバッグから何か取るつもりだったんだと思ってホッとした。こんな時は大声を出して、周りの人に気付いてもらうのが一番だという事を久々に再確認した。

 次はサンドイッチ泥棒である。グエル公園前で地下鉄を降り、出口に向かうエスカレーターに乗ろうとしたら、一人の若い男が突然私の前に割り込んできた。「何だこいつは。少し変だな。」と思って、バッグを小脇に抱えなおしてそのまま乗っていたら、案の定、エスカレーターを降りる所で、直前の男がパンフレットか何かをわざと落とし、拾うふりをして出口をふさいでしまった。その瞬間、ズボンの左右のポケット(もちろん前ポケット。海外で後ポケットにハンカチ、地図以外のものを入れたりはしない)に他人が手を突っ込んでくるのを感じた。すぐにしゃがんで、「ウワーーー」と大声を出した(叫ぶ言葉までは決めていなかった。もう少しマシな言葉を叫べば良かったと後で思った)。4人ぐらいがバタバタと反対車線の方へ逃げて行った。他の乗客が飛び散ったボールペンやら地図やらを集めてくれたが、口々にスペインは怖いと言っていた。今回の場合ラッキーだったのは、地下鉄に乗っている間に念のためと思ってカメラも財布も全てバッグの中に仕舞い込み、バッグそのものもたすきがけにしていた事である。右前ポケットに入れていた財布をバッグの中に移した直後の出来事である。本当に幸運であった。バルセロナでは大半の観光客がショルダーやバッグはたすきがけ、リュックは前抱きである。

 カタルーニャ広場で昼ご飯を食べようと思い、歩道を渡っていたら、私の前にジプシーの女が汚い紙(何か知らない。良く見ていない)を広げながら、何か言った。3回目だから、またかと思い、すぐに後ろを見た。案の定、ジプシー女がもう一人真後ろにいた! 反射的に横に飛び、横断歩道を走って渡りきり、バーガーキング(注2)の扉の前に立ち、後ろを振り返ったら、ジプシー女が二人並んでこちらをにらんでいた。以上、3回もスリにあったが、この程度ではそんなにショックは受けていなかった(注3)。

 バルセロナ見物の最後に、オリンピックスタジアムのあるモンジュイックの丘に美術館経由で行こうと思って、地下鉄駅からカタルーニャ美術館(キリスト教関係の壁画所蔵で有名な美術館)へ向かって歩いた。美術館に着く直前に、ジャンバーを着た男が立ち入り禁止区域の中(雑木林の中)で財布か何かをしきりに調べているが見えた。何だろうと思って、ちらちら見ながら進んでいたら、相棒みたいなのが、遠くから何か怒鳴ったのでその男は急に作業を中止した。泥棒が盗んだものを調べているのか! とその時悟ったが、それからが大変であった。
 一応、美術館前までたどり着いたが、その二人組みが私の周りから離れない。もちろん他に観光客がいるので、10メートルぐらい離れた所からこちらをちらちらと伺っているだけで手を出したりはしない。試しに人がいないほうに歩いて行くとついてくる。向こうは向こうの事情で「財布を始末する所を私に見られた」と思って何とかしなければと考えているのであろう。これは困った、オリンピックスタジアムまで一人で登って行くなんてとんでもない(周りは人通りの少ない雑木林)、どうやって地下鉄駅まで戻ろうか、帰る途中の雑木林をどうやって切り抜けるか、といろいろ考えた。
 幸いな事に全員20代で、ネクタイ、背広の10人ぐらいのグループが美術館から出てきた。しばらく見ていて、多分モルモン教の若い人達だなと思ったので、彼らといっしょに行動する事にした。彼らは、写真を取ったり、ガイドさんの説明を聞いたりしていたので、やきもきしたが、そのうち下り出した。全く同じペースと言うわけにはいかないので、前になったり後になったりしながら、やっとの思いで地下鉄駅までたどりついた。その間、例の二人が私と一緒に下ってきながら合図をしているのがもう二人いる事がわかった。4人の男に囲まれたら、どうなっていたかと思うと、観光する気分はどこかに飛んでいってしまった。実害はなかったが、心底気が滅入った。予定を早めて午後4時半発のヴァレンシア行きに乗った。帰りの車内では「よくぞ無事に帰れた」との安堵感で一杯であった。

 今回の事件でLadronと言うスペイン語を覚えました。泥棒と言う意味です。最後の体験は本当に怖かった。「安全と水はただ」の日本がいいですね(注4)。

 (注1)英語を日本人のようにロ−マ字読みする癖の事。例えば、identifyやstudyを「イデンチファイ」「スツディ」と発音する。
 (注2)ハンバーガーショップ等の現金を扱う店には全てガードマンがいます。危ないと思ったら逃げ込んだほうがマシです。そこまでは追ってきません。ガードマンが必要と言う事自体が社会の状態を示していると思います。
 (注3)いずれも典型的なスリのパターン。この他に、ジュース、ペンキ等をかけて、拭いてやりながら盗む。電話中に早く代わってくれと声をかけている間に、相棒が盗む。
 (注4)砒素事件等を見ると、陰湿なのが多いのは日本かも知れません。また、肩がふれたぐらいで喧嘩になり、殺人事件になると言うのも異常です。

HP全体のトップへ