学生時代の実験ノート(穐田宗隆)(1)

 2006年3月、専攻長の業務からの開放が目前に迫っていたある日、一つの段ボール箱が送られてきました。送り主はと見ると、学生時代(京大)の恩師の玉尾皓平先生からではありませんか。玉尾先生は2005年3月に定年を一年残して退職され、現在は理化学研究所のフロンティア研究センター長を努めておられます。そんな先生から私にいったい何が送られてきたのかと中身を見ると、お手紙と何と学生時代の実験ノートでした。どうやら退職を期に、それまで保管されていた卒業生の実験ノートを卒業生に送り返して下さったようです。パラパラめくっていると、昔の自分に出会ったみたいでいつまで見ても見飽きることはありません。実験ノートの書き方がだんだん雑になっていくのは誰しも抗うことはできませんが、その一方でデータをきっちりまとめてあったりして、気恥ずかしいやら、うれしいやら、懐かしい気持ちで一杯になりました。それにしても私が研究室を離れて25年、よく保存していただいたものだと感謝の念で一杯です。そうこうしているうちにホームページに掲載しようという気持ちが頭をもたげてきた次第です。

 下に写っている左側のノートは大学4年生(1978年;28年前)で熊田研究室(当時玉尾先生は助手)に配属された時の最初のノート、右側のノートは、当時京大合成化学科のしきたりで4年生の後期半年間よその研究室(松浦輝男研究室)で卒業研究を終えて、修士1年に復帰してからの一冊目のノートです(1979年;27年前)。当時私はいわゆる「玉尾酸化」に関連した、ケイ素−炭素結合の酸化的切断反応をテーマにして実験を行っていました。

 

 表紙を開くと内容が整理してあります。原料合成からはじまり、4年生最初の実験はメチルビニルケトンから誘導されるシリルエノールエーテルの合成でした。

実験番号1

 1978年(昭和53年)4月22日(土)記念すべき研究開始の日。左のページに手順や引用文献(予習)が、右のページには実際やったことが書かれていて、最初はまじめに書いているようです。

 それで結果はというと、何とあえなく「失敗」。メチルビニルケトンが勝手に二量化してしまったようです。

続く