受賞・プレスリリース
- 2025.07.01
ワインの"渋み"成分を活用し、がん細胞内に抗体を届ける新しい治療法を開発
本研究所の本田雄士助教、原口陽菜修士課程学生(当時)、同 西山伸宏教授らの研究チームは、公益財団法人川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)と共同で、ワイン成分であるポリフェノールを活用して、抗体を搭載したナノマシンを創成し、抗体をがん細胞内の標的箇所にピンポイントで送達する新しい治療法を開発しました。従来、抗体は細胞膜を通過しにくいうえに、仮に細胞に取り込まれたとしてもエンドソームという膜小胞器官から脱出できないため、細胞内では治療効果を発揮できないという課題がありました。本研究で創成したナノマシンによって、標的分子を認識し治療効果を示す抗体を細胞内に届けることで、これまで治療標的にするのが難しいとされた細胞質内の抗原にアプローチする新たながん治療法が誕生すると期待されます。
今回、本田助教らの研究チームは、ワインなどに含まれるポリフェノールと鉄イオンを用いたナノマシンを開発しました。ポリフェノールをステルス性の高いポリエチレングリコール(PEG)と結合させることで、抗体を搭載した直径約30 nmのポリフェノールナノマシンを形成させ、血中安定性とがん組織への集積性を向上させました。さらに、細胞内の酸性環境に応答して、抗体をエンドソームから効率的に放出させ細胞質内抗原に結合させることに成功しました。このポリフェノールナノマシンは、難治性乳がんの同所移植モデルマウスにおいて強力な抗腫瘍効果を示し、無処置群と比較して腫瘍サイズを20%にまで抑制しました。本技術は、抗体医薬の適用範囲を細胞内部へと広げる革新的なプラットフォームとなる可能性があります。
本成果は、6月4日付(米国東部時間)の「Journal of Controlled Release」誌に掲載されました。
論⽂情報
●掲載誌 | : | Journal of Controlled Release |
●掲載日 | : | 2025年6月4日 |
●著者 | : | 本田雄士*・原口陽菜・津田雄流・黄若言・六車共平・ Haochen Guo・野本貴大・三浦裕・西山伸宏* |
●タイトル | : | Metal-Phenolic Network-Based Polymeric Nanocarriers Facilitating Antibody Cytoplasmic Delivery and Anti-tumor Effects to Orthotopic Breast Tumors |
●DOI | : | 10.1016/j.jconrel.2025.113929 |
関連情報
■ | Science Tokyo ニュース | : | ワインの"渋み"成分を活用し、がん細胞内に抗体を届ける新しい治療法を開発 |
■ | プレスリリース | : | ワインの"渋み"成分を活用し、がん細胞内に抗体を届ける新しい治療法を開発--ポリフェノールを使ったナノマシンが抗体医薬のポテンシャルを引き出す--(PDF) |
■西山・三浦研究室 |