東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所

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受賞・プレスリリース

  • 2025.07.01

多孔性結晶中のNaイオンの高速拡散機構を新たに提唱

本研究所の館山佳尚教授、早稲田大学 先進理工学研究科の伊藤暖大学院生(博士後期課程3年)らは、スーパーコンピュータ「富岳」を用いた高精度計算により、Naイオン(Na+)電池の有望な電極材料であるプルシアンブルー(PB)結晶におけるNa+の拡散機構とPB結晶の動的な無歪み性が室温以下の高速拡散に重要であることを提唱しました。これは「大きい孔が拡散に有利」という典型的な考え方を書き換え、また開発競争が加速するNaイオン電池の正極材料設計指針を飛躍的に前進させる成果です。

近年、資源制約フリーなNaイオン電池の研究が著しく加速しており、電池性能を決定づける正極材料の性能向上は重要な課題となっています。その解決法の一つとしてPB正極の利用が注目を集めていますが、PB正極の充放電速度向上の鍵となるNa+拡散の観測・制御は難しく、PB正極の材料設計の課題となっていました。

本研究では、スーパーコンピュータ「富岳」等を利活用することで、温度効果も含めた高精度な原子レベルの計算、第一原理分子動力学計算(FPMD)を世界に先駆けて実行しました。その結果、Li+、Na+、K+の拡散特性の比較を通して、Na+が室温以下でも高い拡散係数を維持すること、その要因としてPB結晶の動的な無ひずみ性が重要であることを示しました。得られた知見は、一般の多孔性結晶内のイオン拡散の基礎学理に新たな視点を与えるものであると同時に、室温以下で優位に駆動するNaイオン電池の材料開発にも大きく貢献するものと言えます。

本研究の成果は、米国化学会が出版する学術雑誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版に6月30日付(米国東部時間)で掲載されました。

論⽂情報

●掲載誌 Journal of the American Chemical Society
●掲載日 2025年6月30日
●著者 伊藤 暖・Seong-Hoon Jang・安東秀峰・門間聰之・
館山佳尚
●タイトル Dissimilar Diffusion Mechanisms of Li+, Na+, and K+ Ions in Anhydrous Fe-Based Prussian Blue Cathode
●DOI 10.1021/jacs.5c05274

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館山・安藤研究室


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