東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所

NEWS & TOPICS

NEWS & TOPICS

受賞・プレスリリース

  • 2025.10.24

酵素断片の「トラップ&リリース」に基づく抗原依存的酵素スイッチ

東京科学大学(Science Tokyo)総合研究院 化学生命科学研究所の北口哲也准教授と安田貴信助教らの研究チームは、東北大学 多元物質科学研究所の田口真彦助教、理化学研究所の木川隆則博士、信州大学の新井亮一教授と共同で、抗体に酵素の断片を融合させることにより、抗原に応答して活性が上昇する酵素スイッチ「Switchbody」 を開発しました。

タンパク質は多様な機能を持ち、さまざまな生命現象に関与しています。その中でも、外的刺激に応答してオン・オフのスイッチとして機能するタンパク質は、細胞生理機能を動的に制御する上で重要な役割を果たします。このスイッチ機能を人工的に設計・構築できれば、生命現象の分子メカニズムの解明だけでなく、病気の治療やバイオプロセスの精密制御といった幅広い分野への応用が期待できます。

本研究では、スイッチ機能を追加するモデルタンパク質として生物発光酵素NanoLucを採用し、任意の分子の添加で酵素活性を上昇させることを試みました。具体的には、NanoLuc由来の11残基のアミノ酸断片を抗体の抗原結合部位の近くに融合し、抗原を酵素活性で検出できる設計としました。抗原が結合すると、抗体にトラップされていた酵素断片がリリースされ、このときにNanoLucから11アミノ酸断片を切り出した後に残った断片が存在すると、断片同士の相互作用によって酵素が再構成して活性が上昇する仕組みです。さらに、この仕組みを利用した免疫測定法の開発にも成功しました。また、この酵素断片の"トラップ&リリース"機構の詳細をELISAやX線結晶構造解析、NMR解析、MDシミュレーションで多角的に明らかにし、Switchbodyの合理的設計に関する手掛かりを得ました。将来的に、細胞内シグナルに関わる酵素とさまざまな抗体からSwitchbody を作製し、化学遺伝学ツールとして多様な抗原による複数の細胞生理機能の同時操作を目指します。

本成果は、2025年9月15日付(現地時間)の「Advanced Science」誌にオンライン掲載されました。

論⽂情報

●掲載誌 Advanced Science
●掲載日 2025年9月15日
●著者 安田貴信・上野慶行・田口真彦(東北大学 多元物質科学研究所)・Naoya Tochio・Hiromasa Yagi・Shuma Yazaki・新井亮⼀(信州大学)・朱博・木川隆則(理化学研究所)・上田宏・北口哲也
●タイトル Switchbody, an Antigen-Responsive Enzyme Switch Based on Antibody and Its Working Principle
●DOI 10.1002/advs.202508422

関連情報

Science Tokyo ニュース 酵素断片の「トラップ&リリース」に基づく抗原依存的酵素スイッチ
プレスリリース 「トラップ&リリース」に基づく抗原依存的酵素スイッチー任意の分子によるタンパク質機能の自由自在な制御を目指してー(PDF)
北口研究室


ページトップへ