東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所

NEWS & TOPICS

NEWS & TOPICS

受賞・プレスリリース

  • 2025.11.19

細胞内のATP濃度を決定できる蛍光寿命型センサーの開発に成功

東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所の北口哲也准教授らは、金沢大学 ナノ生命科学研究所(WPI-NanoLSI)の新井敏教授、ブー・クアン・コン特任助教、シンガポールA*STARの伊藤秀城上級研究員(研究当時)とレーン・エレン主席研究員(研究当時)らの研究グループと共同で、ATP濃度を「蛍光寿命」という蛍光タンパク質の光学的特性に変換して測定できる、新しい蛍光センサーを開発しました。

私たちの体を構成する最小単位「細胞」では、さまざまな化学反応が起こっており、その"燃料"として働くのが、ATP(アデノシン三リン酸)です。ATPは「エネルギーの通貨」とも呼ばれ、細胞活動の根幹を支えています。そのため、細胞内のどこに、どのくらいのATPが存在するのかを正確に測定することは、生命現象の理解に不可欠です。

これまで、細胞内の標的分子の濃度変化は、蛍光の明るさ(蛍光輝度)の変化として検出するセンサーが広く用いられてきました。しかしこの手法では、細胞の形状やセンサーの導入量、励起光の強度などの影響を強く受けるため、定量的な解析が困難という課題がありました。本研究では、この課題を克服するため、前述の要因の影響を受けにくい「蛍光寿命」という頑強な光学パラメーターを導入しました。ATP濃度を蛍光寿命値に変換できるセンサーを開発し、ATP濃度と蛍光寿命値の対応関係(検量線)を用いた定量的な比較を可能にしました。これにより、細胞ごとのATP濃度の違いを正確に評価できるようになりました。

この手法を用いて疾患細胞を解析したところ、ミトコンドリア病患者由来の細胞では、ミトコンドリア内のATP濃度が健康な細胞に比べて低いこと(防衛医科大学・大澤らとの共同研究)、悪性度の高いがん細胞ほど細胞質内のATP濃度が高いことが明らかとなりました(金沢大学ナノ生命科学研究所/がん進展制御研究所・中山、大島らとの共同研究)。

本研究は、細胞内エネルギーの定量イメージングに新たな道を拓く成果です。今後、この技術は、がん、神経疾患、代謝異常など、細胞エネルギー異常が関与する多くの疾患研究への応用が期待されます。

本研究成果は、2025年11月13日に「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。

論⽂情報

●掲載誌 Nature Communications
●掲載日 2025年11月13日
●著者 新井敏・伊藤秀城・Cong Quang Vu・Loan Thi Ngoc Nguyen・中山瑞穂・大島正伸・森田敦也・岡本和子・奥田覚・寺西亜生・大澤麻登里・田村義輝・野々山恵章・田熊めぐみ・藤枝俊宣・Satya Ranjan Sarker・Thankiah Sudhaharan・古部昭広・片山哲郎・木矢剛智・E. Birgitte Lane・北口哲也
●タイトル qMaLioffG: a genetically encoded green fluorescence lifetime-based indicator enabling quantitative imaging of intracellular ATP
(qMaLioffG:細胞内のATPを定量的に可視化する遺伝子コード型の蛍光寿命バイオセンサー)
●DOI 10.1038/s41467-025-64946-2

関連情報

Science Tokyo ニュース 細胞内のATP濃度を決定できる蛍光寿命型センサーの開発に成功
プレスリリース 細胞内の ATP 濃度を決定できる 蛍光寿命型センサーの開発に成功(PDF)
北口研究室


ページトップへ