東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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  • 2017.09.08
  • 福島・庄子研究室

巨大π共役系の一挙構築を可能にするアルキン類の芳香環化反応

 π共役化合物は、近年注目を集めている有機エレクトロニクスの分野で基盤となる物質です。π共役系がどのようにつながっているか、あるいはどのような立体構造を持つかで、π共役化合物の性質は大きく変わります。そのため、目的の構造をもったπ共役化合物を効率的に合成する手法が求められていました。従来、巨大なπ共役系を有する化合物を合成しようとすると、多段階で手間のかかる合成作業が必要でした。π共役化合物の簡便な合成を可能にする強力な手法としてクロスカップリングが挙げられますが、多段階反応かつ高価で希少な遷移金属触媒の利用や、特殊な合成技術が必要などといった課題がありました。

 我々は、ホウ素を組み込んだπ共役化合物の合成研究の過程で、ホウ素化合物がアルキン類に対して連続的に炭素-炭素結合形成反応を無触媒で引き起こすことを見出しました(図1, ref 1)。最終的にはホウ素が脱離することで、原料のアルキン類が芳香環化したπ共役化合物が得られます。この反応は ①ボラフルオレンというホウ素化合物による、アルキンの1,2-カルボホウ素化反応と、②その生成物(ボレピン)の一電子酸化による脱ホウ素化/C-C結合形成反応の2段階からなります(図1)。この2段階目の反応は、これまで知られていなかった新しい反応です。形式的に高エネルギーなホウ素のカチオン種([B-Cl]•+)の脱離を伴うため、これまでの常識を外れた反応と言えます(ホウ素カチオンに関する研究については ref 2,3もご参照ください)。

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図1.ホウ素化合物による連続的炭素-炭結合形成反応.

 この反応は官能基許容性および基質適用性に優れています。反応を行うのに必要な操作は、「ボラフルオレンとアルキン誘導体を混ぜ、温めながら撹拌した後で、反応系に安価な酸化剤(塩化鉄(III)など)を加えるだけ」というごく簡便なものです。様々なアルキン誘導体をワンポット反応で簡便に芳香環化することが可能なため、この反応により、巨大なπ共役系や、複雑な湾曲構造、三次元的な分子骨格をもつなど、特徴的なπ共役化合物を簡便かつ高価な触媒を使わないで低コストに得ることができます(図2)。

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図2.本反応により得られるπ共役化合物の例.

 今回新たに発見したホウ素化合物の反応(図3A)は、遷移金属錯体に典型的に見られる連続的な結合形成反応(図3B)と反応パターンが類似しています。典型元素であるホウ素が、反応においてあたかも遷移金属のように振る舞うという今回の発見は、ホウ素を始めとする典型元素の化学をより深く理解するための重要な知見であると考えられます。

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図3.今回見出されたホウ素の反応(A)と遷移金属錯体に典型的に見られる反応(B)の類似性.

 今回の新合成手法によって、様々なπ共役化合物を、極めて簡便かつ安価に合成する道が拓けました。本成果をもとに、この反応に用いるホウ素化合物「ボラフルオレン」が試薬会社より販売されています(ref 4)。こうして得られるπ共役化合物は、有機半導体材料、発光材料、動的な性質やキラルな構造に基づく新機能材料など、次世代技術である有機エレクトロニクスを支える物質としての活用が期待されます。現在我々は、この手法を利用した機能性π共役化合物の開発に取り組んでいます。また、典型元素化学のより深い理解へ向け、この反応のメカニズムの詳細な解析に力を入れています。

[1] Y. Shoji, N. Tanaka, S. Muranaka, N. Shigeno, H. Sugiyama, K. Takenouchi, F. Hajjaj, T. Fukushima, Nature Commun. 2016, 7, 12704.
[2] Y. Shoji, N. Tanaka, K. Mikami, M. Uchiyama, T. Fukushima, Nature Chem. 2014, 6, 498.
[3] 化学生命科学研究所ウェブサイト内 最新の研究「ホウ素による分子性超ルイス酸の開発」(http://www.res.titech.ac.jp/news/reserch/post_32.html)
[4] 東京化成工業株式会社ウェブサイト内「拡張π共役化合物合成に有用なボラフルオレン」(http://www.tcichemicals.com/ja/jp/support-download/tcimail/application/172-22b.html)

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