東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

NEWS & TOPICS

NEWS & TOPICS

最新の研究

  • 2018.03.01

赤外分光法を用いた高温での ゼオライトの酸性質およびプロトンホッピング機構の解明

 ゼオライトは、(SiO4)4-および(AlO4)5-の四面体ユニットを基本とした3次元立体構造を有する結晶性の多孔体であり、現在では235種類もの構造が報告されています。この細孔構造により分子ふるい能が発現し、様々な固体触媒反応においてその結晶構造に特異的な反応選択性を示します。特に、固体酸触媒としての応用は古くから盛んに研究されてきました1)。図1には、代表的なゼオライトの一つであるMFI型の結晶構造とゼオライト酸点の模式図を示しています。ゼオライトの酸触媒能はSiとAl原子間に存在する架橋水酸基がブレンステッド点であると考えられています。そして、この酸性水酸基は赤外分光(IR)法によりOH伸縮振動として観測されるため、IR法を用いることで酸点を直接観測することが可能です。

201803fig01jp.jpg

図1 MFI型ゼオライトの骨格構造と酸点の模式図

 IR法を用いた従来のゼオライト酸性質評価としては、ピリジンやCOなどをプローブ分子として用いた評価方法が一般的でした(図2)2)。しかしながら、これらの方法ではいくつかの問題点があります3)。その中の一つとして、プローブ分子を用いて評価する際の温度(423 K以下程度)と実際の触媒反応の温度(573 K以上の高温)とのギャップが挙げられます。

201803fig02jp.jpg

図2 赤外分光法を用いた従来の酸性質評価方法

 当研究室では、in-situ IR法を用いて高温における酸点の挙動を直接観測し、異なる骨格構造を有するゼオライトの酸性水酸基解離エンタルピーを算出することで、高温においてのゼオライト酸性質の解明を行いました4)。また、高温で酸性水酸基から放出されたプロトンのホッピング機構を計算化学的アプローチと併せることで解明しました。その結果、化学組成としては同じであるSiとAl原子間の架橋水酸基でも、ゼオライトの骨格構造が違うことで、ゼオライトの持つ酸性水酸基の解離エンタルピーが変わることが明らかとなりました。そして、この値は温度領域により異なることが明らかとなり、同様の傾向は検討したすべての骨格構造のゼオライトで得られました。また、DFT計算の結果から、同一の(AlO4)5-ユニットのプロトンが存在するサイトの違いによって(図3)、IRピーク波数や安定なエネルギーが異なるといったことが明らかとなりました。これらの結果から、高温において発現するゼオライトの酸性質は、プロトンホッピング機構と関係性が強いことが明らかとなり、図4に示すような2種類のプロトンホッピング機構が存在することが示唆されました。このようにして、高温におけるゼオライトの酸性質を明らかにすることは、触媒設計をする上でも非常に重要な事項となると考えられます。

201803fig03jp.jpg

図3 各酸素原子上に生成した酸性水酸基のIRピーク波数の計算結果

201803fig04jp.jpg

図4 高温におけるゼオライトのプロトンホッピング機構

 本研究成果は、香港城市大学の土井富一城博士、平尾一教授との共同研究によるものです。

1) A. Corma, Chem. Rev. 1995, 95, 559−614.
2) G. Busca, Microporous Mesoporous Mater. 2017, 254, 3−16.
3) K. Chakarova, K. Hadjiivanov, J. Phys. Chem. C 2011, 115, 4806−4817.
4) R. Osuga, T. Yokoi, K. Doitomi, H. Hirao, J. N. Kondo, J. Phys. Chem. C 2017, 121, 25411-25420.

ページトップへ