東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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最新の研究

  • 2018.05.01
  • 田中・今村研究室

葉緑体のリボソーム合成を細胞質リボソーム合成と共役させる分子機構の解明

【研究背景】

細胞におけるタンパク質合成は、リボソームと呼ばれる翻訳装置により行われます。このリボソームは、リボソームタンパク質とリボソームRNA(rRNA)から構成される巨大な酵素複合体であり、その生合成量はrRNA合成量によって決定づけられています[1]。そのため、rRNA合成は増殖と相関して厳密に調節されていることが知られています。

植物細胞は、核・葉緑体・ミトコンドリアの3種の細胞内小器官それぞれに別々のrRNA遺伝子を持ち、それぞれから独立に転写されて機能を果たしています。核で合成されたrRNAは、細胞質に輸送され細胞質のリボソーム合成に用いられ、葉緑体とミトコンドリアでは、各々の場所でrRNA合成とリボソーム合成が行われます。しかし、それら3種のrRNA合成が互いにどのような関係を持って細胞内で調節されているかは、その重要性にかかわらずこれまで不明でした。本研究では、その不明な調節機構を明らかにすることを目的に、単細胞紅藻シゾン(学名Cyanidioschyzon merolae)を用いて解析を行いました。

【研究成果】

私たちは、核におけるrRNA合成が真核生物では一般にTOR(target of rapamycin)キナーゼで調節されていることに着眼しました[2]。そして、TORキナーゼが、核のみならず、葉緑体とミトコンドリアにおけるrRNA合成にも関与するという仮説を立てました。TORキナーゼは、真核生物に広く保存されているタンパク質リン酸化酵素であり、利用可能な栄養源に応じて細胞の成長(大きさ)を制御する重要な役割を担っていることが知られています[3]

まず、シゾン細胞内の3種の細胞内小器官におけるrRNA合成を検出可能な実験系を確立し、TORキナーゼ活性に応じた各rRNA合成量の変動を観察しました。その結果、TORキナーゼの活性を特異的な阻害剤により不活化すると、核に加えて葉緑体とミトコンドリアにおけるrRNA合成量が、同様のタイミングで低下していることが観察されました(図1)。すなわち、TORキナーゼが3種のrRNA合成をリンクさせて調節していることが明らかになりました(図2)。

201805Fig1.png
図1. TOR阻害による3つのオルガネラにおけるrRNA合成量の変化.

TORの活性を阻害すると3種のリボソームRNA合成が揃って阻害される。

201805Fig2jp.png図2. 3つの細胞内小器官におけるリボソームRNA合成が共役して調節される仕組みの概略図.
細胞質に存在するTORは、3種のリボソームRNA合成を正に調節する。TORが阻害されると核内にコードされているppGpp合成遺伝子 (CmRSH4b) の発現が上昇し、このタンパク質が葉緑体に輸送されppGpp合成が引き起こされる。これにより、葉緑体で行われるリボソームRNA合成が阻害される。

さらに、細胞質に存在するTORキナーゼが、葉緑体内で起こるrRNA合成を調節する仕組みの解明を試みました。その結果、核にコードされているグアノシン4リン酸(ppGpp)合成酵素遺伝子 (CmRSH4b) の発現が、TOR活性阻害により誘導されていることを発見しました。ppGppは、環境変化に適応するためにバクテリアが合成する細胞内シグナル分子として発見され、また、rRNA合成を阻害することが知られています。その後の生化学や遺伝学を用いた詳細な解析により、CmRSH4bタンパク質が葉緑体内に移行・蓄積し、それにより合成されたppGppが、葉緑体内のrRNA合成反応を阻害していることを明らかにしました(図2)[4]

TORキナーゼによる増殖の調節は、真核生物のみが有する仕組みです[3]。一方、ppGppにより引き起こされる応答は、バクテリアを起源とする増殖を調節する仕組みであり、真核生物では植物のみに存在します[5]。葉緑体は、光合成を行うシアノバクテリアが真核細胞に内部共生し、それが進化して誕生した細胞内小器官であると考えられています。本研究により、葉緑体では、進化の過程において真核生物とバクテリアを起源とする2つの異なる仕組みが連結され、そのrRNA合成が調節されていることを示すことができました(図3)。この連結された2つの仕組みは、葉緑体における増殖の調節の確立において必須であり、それゆえ、現存する微細藻類から被子植物までその仕組みが保存されていると考えられます。

201805Fig3jp.png図3. 真核生物の核内、バクテリア、葉緑体におけるリボソームRNA合成調節の概略図.
葉緑体では、TORキナーゼとppGppによる調節の仕組みが連結され、一つの調節系としてリボソームRNA (rRNA) 合成がコントロールされている。

【今後の展開】

TORキナーゼが、どのように環境変化の情報を感知して3種の細胞内小器官におけるrRNA合成を調節しているのかは不明です。今後その点を明らかにすることにより、植物における増殖を調節する仕組みの全体像解明につながることが期待されます。また、シゾン以外の生物におけるrRNA合成を調節する仕組みの共通性や相違点を見出すことで、葉緑体の増殖を調節する仕組みの進化過程をより明らかできると考えています。

参考文献

[1] Hannan K.M., Hannan R.D. and Rothblum L.I. (1998) Transcription by RNA polymerase I. Front Biosci. 3, d376-d398.
[2] Mayer C., Zhao J., Yuan X. and Grummt I. (2004) mTOR-dependent activation of the transcription factor TIF-IA links rRNA synthesis to nutrient availability. Genes Dev. 18, 423-434.
[3] Laplante M. and Sabatini D.M. (2012) mTOR signaling in growth control and disease. Cell 149, 274-293.
[4] Imamura S., Nomura Y., Takemura T., Pancha I., Taki K., Toguchi K., Tozawa Y. and Tanaka K. (2018) Plant J. 94, 327-339.
[5] Atkinson, G.C., Tenson, T. and Hauryliuk, V. (2011) The RelA/SpoT homolog (RSH) superfamily: distribution and functional evolution of ppGpp synthetases and hydrolases across the tree of life. PLoS One 6, e23479.

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