東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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最新の研究

  • 2018.08.08
  • 中村・布施研究室

マイクロフローリアクター内での瞬間(< 0.1秒)pH転換に基づくアミノ酸N-カルボキシ無水物(NCA)の革新的合成

 アミノ酸N-カルボキシ無水物(NCA)は生体適合性材料、生分解性ポリマー、薬剤キャリアや医薬品として有用なポリペプチドの原料として重要です。様々なアミノ酸を原料として高純度のNCAを簡便に合成できる手法の開発が求められています。

201808jpFig01.jpg 図1 NCAの用途

 現在唯一の実践的なNCAの合成法1)はアミノ酸に対して酸性条件下でホスゲンおよびホスゲン等価体を反応させる手法ですが、この手法は強酸性条件下で長時間の加熱を要するため、副反応をひきおこす点が問題となっており(図2 上段)、当然のことながら酸性条件下で不安定な官能基をもつNCAの合成は困難です。一方、塩基性条件下でNCAを合成すれば速やかに反応が進行すると考えられますが、目的物のNCAが塩基性条件下で容易に重合してしまうため、未報告となっています(図2 下段)。このような背景から約100年も前に報告された合成手法1) が現在も使用され続けています。

201808jpFig02.jpg    図2 NCAの従来の合成法(上)、
      未報告の合成法(下)と開発した合成法(左下から右上)

「塩基性条件下だと反応は速いが、目的物が望まない反応を起こしてしまう」

有機合成においてたびたび遭遇するこのような課題をどのように解決したら良いでしょうか?
我々の答えは

「マイクロフローリアクター中で0.1秒以内に塩基性から酸性に瞬間転換する」

というものでした(図 2左下から右上)。

  つまり、塩基性条件下で速やかに望む反応を進行させて、0.1秒以内という極めて短時間に酸性にスイッチして目的のNCAを重合させずに得るという方法です。 これを実現するには 0.1秒以内という短時間にアミノ酸の水溶液とトリホスゲンの有機溶媒溶液を混合してpHを制御しなくてはなりません。常のフラスコの反応では原理的に数秒以上を混合に要するため、この制御は不可能です。一方で微小な流路を反応場として用いるマイクロフロー法ではこれが実現可能です。

 図3 に示すとおり、実際に二液をマイクロミキサーで高速混合し、故意に小過剰用いたトリホスゲンから発生する塩化水素を利用して高速でpHを転換することに成功しました。また、塩化水素が長時間 NCAと接触するのを防ぐために瞬間希釈を行うことにより、 これまで不可能であった塩基性条件でも酸性条件でも不安定な NCAを合成することに世界で初めて成功しました。既にタンパク質構成アミノ酸全20種および酸性条件で不安定な官能基をもつ非天然アミノ酸を原料としてNCAの合成を達成しています2)

 

201808jpFig03.jpg図3 マイクロフロー法を駆使するNCAの合成

 NCAは有用な化合物ですが、不安定なため、その貯蔵や保管には厳密な温度や湿度の制御が求められ、これがNCAのさらなる用途拡大を阻む要因になっています。マイクロフロー合成は省スペースでスケールアップも容易であるため、 私達が開発した手法により、 必要に応じて、 使用場所でNCAを合成できる日が来るかもしれません。

1) a) F. Fuchs, Ber. Dtsch. Chem. Ges. 1922, 55, 2943-2943;
  b) A. C. Farthing, J. Chem. Soc. 1950,3213-3217.
2) a) Y. Otake, H. Nakamura, S. Fuse Angew. Chem. Int. Ed.
   accepted for publication,
DOI: 10.1002/anie.201803549.
  b) 布施新一郎, 中村浩之, 小竹佑磨, 2018.7.9. 特願2018-129847

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