東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

  • アクセス・問い合わせ
  • ENGLISH
  • 所内専用
  • 研究所について
  • 研究室・研究者紹介
  • 情報公開
  • 入学希望者の方へ

化学生命科学研究所ニュース 日本語

  • ヘッドライン
  • 最新の研究
  • 講演会・イベント
  • 受賞・プレスリリース
  • 公募

最新の研究

  • 2019.01.09
  • 山元・今岡研究室

金属サブナノ粒子を分子設計に基づき原子レベルの精度で合成

白金のような貴金属は燃料電池のほか、様々な場面で触媒として幅広く用いられているが、極めて高価であるため使用量を抑える新しい技術の確立が強く望まれている。このような状況のもと、貴金属触媒のさらなる活性向上は緊急の課題であり、性能を保ったまま白金使用量を大幅削減する技術の検討が様々な角度から行われている。より少ない金属で同じ性能を得るためにはまず、粒子をより細かくして質量あたりの表面積を向上させることによる、触媒表面の利用効率向上が図られる。

例えば、白金原子の直径は約0.28 nmであるので、原理的には粒径を1 nm程度まで微小化することで全原子が表面に現れ、比表面積は最大になるはずである。ところが、これまでの研究で、白金粒子を粒径1 nm近くまで微細化すると急激に活性が失われることが広く認知されており、触媒設計における大きなジレンマであった。この理由は諸説あるが、粒径が小さくなることによる電子状態の変化によって、表面への酸素分子の吸着特性が変化していると考えられている。現在では活性が失われる直前の、3 nm程度の粒径を持った白金ナノ粒子が燃料電池触媒として広く使われている。

活性が失われた1 nmの白金粒子とは具体的にどのようなものなのであろうか。2 nm以上の粒径を持つ白金は安定な面心立方格子(fcc)の結晶構造を取り、これはバルク結晶と同じ構造である。しかし、1 nm程度では原子数が少なすぎるため周期的な結晶構造、すなわちこのfcc構造をとることができない。従来までこの結晶構造の消失は、粒子が「アモルファス」になる、すなわち金属特有の(111)面や(100)面といった表面構造の消失と解釈されており、触媒という観点からみてこの変化が好ましくないと考えられていた。端的に言って、小さすぎる粒子は触媒としては使えないと考えられてきた。しかし、近年、担体上に存在する「金属単原子」が触媒として高い活性を示す例も報告されてきており、本質的には、結晶構造の有無は高い触媒活性の必要条件では無いはずである。単原子とナノ粒子(結晶)の中間のサイズであるサブナノ粒子の科学、特にその触媒特性は、これまで判明していることが意外なほど少ない未開拓領域である。

201812jpFig01.png図1 金属サブナノ粒子はナノ粒子と金属錯体・単原子の間に位置する未開拓領域である

 このサブナノ粒子の素性を示唆する一つの概念が、金属クラスターである。この金属クラスターは数個〜十数個程度の金属原子が集合して一つの構造体を形成している孤立物質として定義されており、例えばレーザーアブレーションやアーク放電等の方法で加熱され真空中へ気化した金属原子が、冷却され凝集する過程で生成することが知られている。この気相中のクラスターは極めて不安定であるため、実際に真空槽から取り出して触媒として使うことなどは現実的ではないが、チオールやホスフィンなどの配位子で表面を保護されたクラスターは液相合成することができ、単離もされている。しかし実質的に表面を配位子で完全に保護されているため、触媒としての活用は難しい。従来のクラスター、いわゆる気相中のクラスターと配位子保護クラスターの範疇から外れたサブナノ物質は、単一組成で合成することが事実上不可能であるため、基礎物性を含め多くのことが未解明あった。

触媒活性を含め、サブナノ粒子の本質に迫るためには何が必要であろうか。はじめに化学合成法を確立する必要がある。上記の気相合成法を用いると、原子数を厳格に定義した単分散クラスターが得られるが、きわめて少量しか合成できない。配位子保護クラスターは溶液中で大量合成できるものの、その構成原子数バリエーションは配位子に強く依存しており、表面が強く保護されているためにそれを除去することは難しい。

我々は、これらとは異なる第三の方法として、デンドリマーと呼ばれる規則正しく分岐した高分子に注目した。デンドリマーは、コア (core) と呼ばれる中心分子と、デンドロン (dendron) と呼ばれる側鎖部分から構成される特殊な幾何構造を有する高分子である。一般に高分子はある程度の分子量分布を持つが、高世代のデンドリマーは、分子量数万に達するもののほとんど単一分子量であるという際立った特徴を持つ。金属粒子を得るために金属イオンと複合体を形成できる、ポリアミドアミン構造を持つPAMAMデンドリマーなどは、試薬会社から市販もされているが、今回は、さらに精密に金属数を規定して複合体形成が可能な、独自設計されたフェニルアゾメチンデンドリマーを用いている1

201812jpFig02.png図2 白金サブナノ粒子の合成に用いられるデンドリマー型テンプレートの一例

 このデンドリマー上に配置された多数の配位サイト(シッフ塩基)に、金属イオンの個数を分布なく揃えて錯体として導入する新しい精密金属集積手法を開発した。原子数が明確なデンドリマー金属錯体を化学的に還元処理すると、内部に原子数が明確な金属粒子が得られる2。この手法は白金にも有効である。具体的には前駆体である塩化白金(IV)をテンプレートであるデンドリマー内に錯形成させて、引き続き還元剤(水素化ホウ素ナトリウム)によって処理することによって白金0価を得る。金属核間の融合をデンドリマー内の限定されたドメインで行うことによって構成原子数の明確なクラスターを得ることに成功した。

201812jpFig03.png図3 デンドリマーテンプレートを用いた白金サブナノ粒子の合成スキーム

 この方法で合成できる、単分散金属サブナノ粒子のバリエーションは、テンプレートとして用いるテトラフェニルメタンコアのフェニルアゾメチンデンドリマーに精密充填できる金属数である12, 28, 60個の白金を含むものである。数原子レベルの金属クラスターを合成する手段として用いられてきた気相合成法と比較して本法は溶液中で行うことができ、サイズを定めて精密合成できるため気相法で必要な質量分別(精製)の操作が必要ない。そのため、貴重な白金元素の有効活用という観点から大きなアドバンテージを持った方法である。得られたそれぞれの構成金属原子数クラスターについてTEM観察を行うと、構造モデルから予想される粒径と一致する、それぞれ0.9, 1.0および1.2 nmの直径を持った、粒度分布の全くない(ヒストグラムの分散がTEMの分解能以下である)粒状の影が観測された3

 この方法は原理的に1原子レベルの制御が可能であるが、実際に12原子と13原子からなるそれぞれの白金粒子を選択的に合成することにも成功している4。溶液中で、そのまま触媒として用いることができる弱い保護を受けたサブナノ粒子が1原子の精度で合成できた初めての例である。さらに興味深いことに、白金原子一つ加わるごとに触媒活性が不規則に変化するという結果が得られた。対称性の高い幾何構造を持てることから、これまで最も安定で有用と考えられてきた13原子の白金粒子(Pt13)は、実は最も活性が低く、それより1原子少ない12原子の粒子(Pt12)はPt13の2.5倍の活性を示す。さらに、19原子の白金粒子(Pt19)が最も高い活性を示し、Pt13に対する比活性は4倍にもなった5。Pt19の質量あたりの活性は、現在、広く用いられている粒径3〜5 ナノメートル(nm)の白金ナノ粒子担持カーボン触媒の20倍にもなることが分かった。

201812jpFig04.png図4 サブナノ粒子の触媒活性は原子数ごとに異なり、19原子のとき最大の酸素還元触媒活性を示す。

我々は最近、さらなる精密化、微小化を狙い、5原子〜12原子のサブナノ粒子を1原子の精度で合成することに成功している6。白金のみならず、その合金として三種類の元素を1nm程度の微小な粒子に混合した3元系粒子7、さらには5元系粒子8も得ることが可能である。この新しいサブナノ粒子合成化学の技術を活用して、既存の金属や合金ナノ粒子では不可能な革新的触媒機能の創出を目指し研究を進めている。

1 K. Yamamoto, M. Higuchi, S. Shiki, M. Tsuruta and H. Chiba, Nature, 2002, 415, 509-511.

2 K. Yamamoto and T. Imaoka, Acc. Chem. Res., 2014, 47, 1127-1136.

3 K. Yamamoto, T. Imaoka, W.-J. Chun, O. Enoki, H. Katoh, M. Takenaga and A. Sonoi, Nature Chem., 2009, 1, 397-402.

4 T. Imaoka, H. Kitazawa, W.-J. Chun, S. Omura, K. Albrecht and K. Yamamoto, J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 13089−13095-13095.

5 T. Imaoka, H. Kitazawa, W.-J. Chun and K. Yamamoto, Angew. Chem. Int. Ed., 2015, 127, 9948-9953.

6 T. Imaoka, Y. Akanuma, N. Haruta, S. Tsuchiya, K. Ishihara, T. Okayasu, W.-J. Chun, M. Takahashi and K. Yamamoto, Nature Commun., 2017, 8, 43.

7 M. Takahashi, H. Koizumi, W.-J. Chun, M. Kori, T. Imaoka and K. Yamamoto, Sci. Adv., 2017, 3, e1700101-9.

8 T. Tsukamoto, T. Kambe, A. Nakao, T. Imaoka and K. Yamamoto, Nature Commun., 2018, 9, 468.

ページトップへ