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- 2019.02.20
- 福島・庄子研究室
高分子の鎖末端に導入するだけで高規則構造形成と粘度上昇をもたらす分子ユニットの発見
薄膜は実用上極めて重要な物質形態であり、もし有機薄膜で構成分子の配向や配列を完全に制御できれば、分子が本来持つ性質を最大限引き出した高機能薄膜の開発が期待されます1。私たちの研究室では、1,8,13位に置換基を持つ「三脚型トリプチセン」構成要素として設計した分子が、自己集合により大面積で高秩序な分子性薄膜を与えることを見いだしています。この三脚型分子の自己集合化では、トリプチセン部位が2次元入れ子状にパッキングしてシート状に集まり、そのシートが1次元的に積層して規則的な構造(2D+1D構造)が得られます(図1)1,2。この分子の自己集合化能力は極めて高く、シリコンウエハーなどの無機基板上だけでなく、有機高分子基板上においても「2D+1D構造」へと自己集合するため、有機高分子基板の新たな表面改質法としての有用性も見いだされています3。また、フラーレンなどの嵩高い電子電導性ユニットを組み込んでも「2D+1D構造」を持つ薄膜へと自己集合し、異方的な電導挙動を示しました4。
一方、高分子に3次元の規則的な構造を形成することは、ナノパターニング材料をはじめ、物質輸送材料やフォトニック材料の開発など様々な分野で重要視されています。研究過程で私たちは、「この高い自己集合化能力を持つ分子ユニットを用いれば、分子量の大きな高分子に対しても規則構造を誘起できるのではないか?」と考えました。
図1. 三脚型トリプチセンの自己集合による高秩序薄膜形成
そこで今回、この三脚型トリプチセンと類似の構造を持つ、1,8位に置換基を有するトリプチセン誘導体を、代表的なアモルファス高分子であるポリジメチルシロキサン(PDMS、数平均分子量約2万Da、分子量分布Mw/Mn = 約2)の鎖末端に組み込んだ末端修飾ポリマー(テレケリックポリマー)を合成しました(図2)5。X線回折測定によりこの高分子の凝集構造を調べたところ、小分子の場合と同様、トリプチセンが2次元シート構造を形成し、そのシートが約20 nmという長周期で1次元的に積層した「2D+1D構造」が形成されていることがわかりました。特に、1次元長周期構造に関しては6次以上の高次のX線回折が観測されており、構造規則性の高さが伺えます。通常、このような高規則性三次元構造の実現のためには、ミクロ相分離構造を発現するブロックコポリマーを用いるのが一般的であり、その分子量分布は1に近い長さの揃った状態が必要であるとされていました。今回のテレケリックポリマーでは、2万Daという大きな分子量を持つ高分子鎖全体に対して約5%の重量比しか持たない末端ユニットが、2以上の分子量分布を持つ長さのばらつきが大きい状態でも今回の様な高次構造を誘起したことは特筆に値します。また、この高次構造化に伴い、末端修飾前は液体であったPDMSの粘度が1万倍以上に劇的に上昇しました。この粘度上昇により固体化し、加熱、冷却することにより可逆的に融解/固化を繰り返すような、熱可塑性を示すことも明らかとなりました。
図2. 1,8位置換トリプチセンを鎖末端に有するPDMSの特異な自己集合化挙動
本研究の展開として、1,8位置換トリプチセン分子ユニットによる高次構造形成能を活かしたナノパターニング材料、物質輸送材料などの開発や、粘度の大幅上昇を利用した熱可塑性材料などの開発が期待されるほか、現在はさらに高い会合能を持つ分子ユニットの開発を検討しています。今後、この末端修飾法の様々な高分子系への適用が期待されます。
- 1) 総説として:F. Ishiwari, Y. Shoji, T. Fukushima, Chem. Sci. 2018, 9, 2028-2041.(オープンアクセス)
- 2) N. Seiki, Y. Shoji, T. Kajitani, F. Ishiwari, A. Kosaka, T. Hikima, M. Takata, T. Someya, T. Fukushima, Science 2015, 348, 1122-1126.
プレスリリース:高秩序な大面積分子集積膜の構築に成功(http://www.jst.go.jp/pr/announce/20150605/index.html) - 3) T. Yokota, T. Kajitani, R. Shidachi, T. Tokuhara, M. Kaltenbrunner, Y. Shoji, F. Ishiwari, T. Sekitani, T. Fukushima, T. Someya, Nature Nanotech. 2018, 13, 139-144.
プレスリリース:プラスチックに数層の分子配向膜を形成する手法の開発とその応用に成功(http://www.jst.go.jp/pr/announce/20171219-2/) - 4) F. K.-C. Leung, F. Ishiwari, T. Kajitani, Y. Shoji, T. Hikima, M. Takata, A. Saeki, S. Seki, Y. M. A. Yamada, T. Fukushima, J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 11727-11733.
- 5) F. Ishiwari, G. Okabe, H. Ogiwara, T. Kajitani, M. Tokita, M. Takata, T. Fukushima, J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 13497-13502.
プレスリリース:アモルファス高分子の高次構造形成や粘度上昇をもたらす分子ユニット(https://www.titech.ac.jp/news/2018/042750.html)