東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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  • 2019.08.01

CO2 をプローブ分子とした赤外分光法によるゼオライト格子酸素の塩基性評価

 固体プロトン酸触媒反応は、表面に存在している酸性水酸基が活性点となり、不均一に解離した結果生じるプロトン(H+)が付加することで進行すると考えられています。この機構は均一系プロトン酸触媒のものと同様ですが、幾つかの反応で、固体上では酸・塩基のペアサイトが協奏的に反応を進行させていることを示す結果が得られています。例えば、ゼオライト上でのエタノールの脱水反応では、表面水酸基と吸着エタノールから脱水を伴ってエトキシ基が生成し、エトキシ基が脱水素することで最終的にはエチレンが生成します(図1)。そして、後段の反応の際にエトキシ基のメチル基からのみ水素が引き抜かれていることが証明されています1)

201908Fig01.jpg図1 ZSM-5ゼオライト上でのエタノール脱水反応

 この過程は、図2のような酸点とAlを介してその近傍の格子酸素が酸・塩基ペアサイトとして作用していることを示しています。すなわち前半は酸、後半は塩基の作用で一連の反応が進行していることになります。したがって、固体酸触媒の格子酸素の塩基性評価は、固体酸触媒のキャラクタリゼーションにおいて重要な意味を持つと考えられます。

201908Fig02.jpg図2 MFI型ゼオライトの骨格構造と酸点の模式図

 赤外分光(IR)法を用いた従来のゼオライト塩基質評価としては、ピロールやクロロホルムなどをプローブ分子として用いた評価方法が一般的でした2)。しかしながら、これらのプローブは吸着形態の複雑さや、分子サイズの大きさといった問題点が存在します。

201908Fig03.jpg図3 ZSM-5上に吸着したCO2のIRスペクトル

 当研究室では、上記の問題点を踏まえて、固体酸触媒上の塩基点の存在を明らかにするため、様々なプローブ分子を試した結果、CO2吸着によって酸性水酸基とペアになっている塩基性格子酸素の存在を証明することができました3)。この実験は、閉鎖循環系へと接続されたin-situ測定用のIRセルを用いて行っています。吸着温度は室温程度であるため、比較的容易に測定が行えるといったメリットがあります。図3は代表的なゼオライトの1つであるZSM-5にCO2を吸着させた際のIRスペクトルです。測定したスペクトルから、ZSM-5上には少なくとも3種類以上の性質の異なる塩基性格子酸素が存在していることを証明できました。また、異なる骨格構造を持つゼオライトへCO2吸着実験を行うことで、塩基性格子酸素の種類はゼオライトの骨格構造によって異なることも明らかとなりました。

201908Fig04.jpg図4 プロトン型ゼオライト上でのCO2吸着モデル

 さらに、酸性水酸基にアンモニアを吸着させ、酸点を被毒してから、CO2を吸着させると、CO2の吸着量は酸点の被覆率に対して直線的に減少することが確認されました。これは、塩基性の格子酸素が酸点と対になって存在している決定的な証拠であり、図4のような吸着形態が考えられます。このようにして、今まで証明されてこなかった、固体酸触媒上の塩基点(格子酸素)について実験的な証明を行うことに成功しました。

  • 1) J. N. Kondo, H. Yamazaki, R. Osuga, T. Yokoi, T. Tatsumi, J. Phys. Chem. Lett. 6 (2015) 2243.
  • 2) J. C. Lavalley, Catal. Today 27 (1996) 377.
  • 3) R. Osuga, T. Yokoi, J. N. Kondo, J. Catal. 371 (2019) 291.

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