東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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  • 2020.07.01
  • 山元・今岡研究室

元素を模倣するサブナノ粒子「超原子」の合成

超原子は数個から十数個の金属原子の集合体であるサブナノ粒子の一種であり、サブナノ粒子の電子軌道が原子軌道の対称性を作り出すことで元素のような性質を発現するものである(図1)。この超原子は構成する元の元素とは全く異なる特性が発現できるものとして、元素代替の可能性が期待され注目されてきた1

202007Fig01.jpg図 1. 原子の特性を模倣できる超原子

しかしながら、こうした超原子を素材として利用するのは容易ではない。これまで気相での超微小金属粒子の合成は数多く報告されているが2、それを破壊せず取り出すことは難しい。特に、数個からなる金属粒子を精密に量合成することは解決すべき問題として残されている。そのため、こうしたサブナノサイズの金属粒子、特に超原子を溶液中で合成することができれば量合成が容易になり新たな応用研究への道が開けるものと期待されている。

 そこで我々は、典型金属に対する精密な微小金属粒子の合成手法を開拓した。典型金属として、13族のホウ素、アルミニウム、ガリウム、14族のスズ、そして15族のビスマスを化学種として用いた精密な金属集積法を開発し3、それらのサブナノサイズの金属粒子を合成することに成功した4,5(図2)。これにより超原子性など、サブナノ粒子が持つ特殊な物性を解明した。

202007Fig02.jpg図 2. 典型元素のデンドリマーへの集積

超原子の合成にはフェニルアゾメチンを骨格としたπ共役デンドリマー(DPA: Dendritic poly-phenylazomethines)を利用した6。DPAには2つの大きな特徴がある。1つはイミン部位に金属が錯形成できること、もう1つはイミン部位の塩基性がDPAの内部に行くにつれて強くなることである。これらによりデンドリマーの中心部から金属塩の段階的な集積が可能となっている。そして個数を決めて集積した金属塩を還元することで、デンドリマー内部に金属原子数を制御したクラスターを合成することができる7。特にピリジン部位をコアに有するデンドリマーを用いることで13原子を精密に集積できることが分かった8。このデンドリマーが魔法数と呼ばれる13原子の金属粒子の合成を可能にした(図3)。

202007Fig03.jpg図 3. デンドリマーを利用した液相での超原子合成

我々はこうした精密なサブナノサイズの金属粒子合成法を用いることで、超原子の代表例である13族の原子が13個集まった金属粒子(Al13, Ga13)の液相での合成に成功した4。これらはハロゲンとしての性質を模倣するものであり、この性質を光電子分光、電子顕微鏡観察および電気化学測定から明らかにした。さらには、スズやビスマスなど様々な典型金属によるサブナノ粒子の合成に成功し、その新しい機能を見出した。

本研究で見出した超原子性はサブナノサイズの金属粒子の特殊性によるものであり、サブナノサイズにおける分析手法の発展がこの分野を広く展開させると考えている。我々は、こうしたサブナノ粒子の電子顕微鏡での直接観察や電気化学測定9、さらには感度増強した分光分析にも取り組んでおり10、その結果としてサブナノ粒子の物理的および化学的な特殊性が明らかになってきた。こうした知見が、新しいサブナノ粒子の設計に役立ち、機能材料として発展させていくものと期待している。

本研究は、JST-ERATO山元アトムハイブリッドプロジェクトとの共同研究の成果も含めて、まとめたものである。

参考文献

1.  a) D. E. Bergeron, P. J. Roach, A. W. Castleman Jr, N. O. Jones and S. N. Khanna, Science, 2005, 307, 231-235; b) S. N. Khanna and P. Jena, Phys. Rev. B, 1995, 51, 13705; etc.
2.  W. D. Knight, K. Clemenger, W. A. Deheer, W. A. Saunders, M. Y. Chou and M. L. Cohen, Phys. Rev. Lett., 1984, 52, 2141-2143.
3.  a) T. Tsukamoto, T. Kambe, A. Nakao, T. Imaoka and K. Yamamoto, Nature Commun. 2018, 9, 3873; b) T. Kambe, A. Watanabe, T. Imaoka and K. Yamamoto, Angew. Chem. Int. Ed., 2016, 55, 13151-13154; c) T. Kambe, T. Imaoka and K. Yamamoto, Chem. Eur. J., 2016, 22, 16406-16409.
4.  a) T. Kambe, N. Haruta, T. Imaoka and K. Yamamoto, Nature Commun., 2017, 8, 2046; b) T. Kambe, A. Watanabe, M. Li, T. Tsukamoto, T. Imaoka and K. Yamamoto, Adv. Mater., 2020, 32, 1907167.
5.  a) T. Kambe, S. Imaoka, R. Hasegawa, T. Tsukamoto, T. Imaoka, K. Natsui, Y. Einaga and K. Yamamoto, J. Inorg. Organomet. Polym., 2019, 30, 169-173. b) T. Kambe, R. Hosono, T. Imaoka and K. Yamamoto, J. Photopolym. Sci. Technol., 2018, 31, 311-314.
6.  a) K. Yamamoto, M. Higuchi, S. Shiki, M. Tsuruta and H. Chiba, Nature, 2002, 415, 509-511; b) O. Enoki, H. Katoh and K. Yamamoto, Org. Lett. 2006, 8, 569-571.
7.  a) K. Yamamoto, T. Imaoka, M. Tanabe and T. Kambe, Chem. Rev., 2020, 120, 1397-1437; b) K. Yamamoto and T. Imaoka, Acc. Chem. Res., 2014, 47, 1127.
8.  H. Kitazawa, K. Albrecht and K. Yamamoto, Chem. Lett., 2012, 41, 828-830.
9.  T. Imaoka, T. Toyonaga, M. Morita, N. Haruta and K. Yamamoto, Chem. Commun. 2019, 55, 4753-4756.
10.  A. Kuzume, M. Ozawa, Y. Tang, Y. Yamada, N. Haruta and K. Yamamoto, Sci. Adv. 2019, 5, eaax6455.

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