東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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  • 2020.12.14
  • 宍戸・久保研究室

液晶配向による無機ナノロッドの一軸配向形成

 無機ナノ結晶はバルク状態とは異なるナノサイズ特有の物性を発現することが知られている。特にナノロッドは、異方性を活用した機能性材料への展開が期待されることから広く注目を集めている。ナノロッドの異方的特性を十分に引き出すためには配向制御が欠かせない。しかしながら、これまでに電圧印加、自己組織化、高分子との複合化などの方法による配向制御が提案されているものの、一軸配向の大面積化は困難な課題として残されていた。我々は、自己配向性に優れた液晶分子の配向力を利用して無機ナノロッドの一軸配向させることを着想した。液晶材料によってナノロッドの配向を誘導させる方法として、ネマチック液晶高分子によりナノロッド表面を修飾し、さらに低分子ネマチック液晶と複合させるハイブリッド材料を設計した(図1)[1]

202012Fig01.jpg図1. 無機ナノロッド・液晶ハイブリッド材料の模式図

 液晶高分子修飾ナノロッドは図2の手順により合成した。無機ナノロッドの例として直径約7 nm、長さ約50 nmのZnOナノロッドを合成し、表面に高分子重合開始基を導入した。ここで、キャップ剤と重合開始基を逐次的に反応させることで、重合開始基の修飾密度(dI)を制御した。続いて、高分子鎖の長さを制御できる原子移動ラジカル重合(ATRP)法を用い、ネマチック液晶高分子を成長させた。

202012Fig02.jpg図2. ネマチック液晶高分子修飾ZnOナノロッドの合成スキーム

 ポリイミド液晶配向膜を塗布しラビング配向処理を施したSi基板に、液晶高分子修飾ナノロッドと低分子ネマチック液晶を含むアニソール溶液をスピンコート処理により塗布し、液晶相温度で加熱処理することによる配向形成を促した。液晶高分子修飾ナノロッドのみを塗布した場合には全く配向しなかったのに対して、低分子液晶の共存下ではラビング処理方向に沿ってナノロッドが一軸配向した(図3a,b)。また、このような配向構造はdI = 0.7 nm−2の場合に観察されたが、dI = 2.0 nm−2の場合には一軸配向構造は得られず、dI = 0.3 nm−2の場合は、ナノロッド同士の凝集が生じた。これらの結果から、適切な密度の重合開始基からネマチック液晶高分子を成長させることにより、無機ナノロッド表面の液晶高分子と低分子液晶の相互作用が生まれ、液晶配向に従って無機ナノロッドの一軸配向が誘起されることが示された(図3c)。このことは、示差走査熱量測定などからも支持されている。

202012Fig03.jpg図3. (a, b)液晶高分子修飾ナノロッドの走査型電子顕微鏡像:(a) 低分子液晶を含まない場合,および (b) 低分子液晶を含む場合。(c) 液晶配向に従ったナノロッド配向の模式図

 今回示した無機ナノロッドの配向法は、液晶の分子配向をナノロッドに伝播させる材料設計に基づいており、汎用の液晶配向技術で無機ナノロッドを大面積にわたって一軸配向しうる。原理的にZnO以外にも多様な材料に適用可能であり、ナノデバイスの研究開発に資するものと期待できる。この成果に関連し、液晶高分子の組織形成能を高める高分子設計や薄膜と基板界面における分子運動についての知見を深め[2,3]、機能材料創成への研究展開を図っている。

参考文献

[1] S. Kubo, R. Taguchi, S. Hadano, M. Narita, O. Watanabe, T. Iyoda, M. Nakagawa, ACS Appl. Mater. Interfaces 2014, 6, 811-818.
[2] T. Sodemura, S. Kubo, H. Higuchi, H. Kikuchi, M. Nakagawa, Bull. Chem. Soc. Jpn. 2017, 90, 216-222.
[3] S. Kubo, M. Kumagai, N. Kawatsuki, M. Nakagawa, Langmuir 2019, 35, 14222-14229.

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