東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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  • 2021.01.28
  • 山口・田巻研究室

純水供給固体アルカリ水電解のための高性能・高耐久膜電極接合体の開発

 2050年の世界では、人口90億人以上、経済規模は現在の4倍になり、エネルギー消費量は1.8倍に増加すると予測されています。一方で、地球温暖化を防ぐためには、2050年に世界全体でCO2排出量を現状の半分以下に削減する必要が示されています。そのため、近年、石油・石炭などの依存から脱却するエネルギー政策が世界各国で推進されており、太陽電池、風力発電等の、CO2を排出しない再生可能エネルギーの大規模利用が進められています。そうした中、供給の不安定な自然エネルギーを水素キャリア(化学エネルギー)に変換することで大規模な貯蔵・輸送が可能となり、必要な時間・場所で燃料電池や水素タービンなどで電力として取り出す水素エネルギーシステムが注目されています。

 水素を製造する方法としては地球上に豊富に存在する水を電気分解する事で、水素と酸素を取り出す手法が一般的に知られています(図1)。

  図1  
  図1.高分子電解質膜を用いた水電解システム  

その中でも、プロトン伝導高分子膜を用いた固体高分子形水電解(PEWE)は一部実用化されています。固体高分子形水電解は高い水電解性能が得られる一方で高いコストが問題です。PEWEは高酸性・高電圧下で運転を行うため、集電材料として、腐食や溶解に耐性を持つ白金等の高価な貴金属を使用する事が必要となり、それがデバイスコストの大部分を占めています。そうした中で、アニオン伝導膜を用い、アルカリ環境下で運転を行う固体アルカリ水電解(SAWE)が注目されています。アルカリ環境下では多様な金属が安定に存在できるため、集電体や電極触媒に用いる金属として、Ni、Co等の卑金属が使用可能で劇的にコストを下げる事が可能です。しかし、従来のアニオン伝導膜はアルカリ耐久性が低く、現在までにSAWEに対する実用的な膜が開発されていません。

 我々の研究室では、化学耐久性に優れたアニオン伝導膜を設計開発する事を目的とし、一般的に使用されている芳香族アニオン伝導膜の劣化機構を明らかにしました[1]。その結果、高分子主鎖に分解の起点となるエーテルやヘテロ元素などをもたず、芳香族の結合のみから構成されている、ポリフェニレンのような材料が化学耐久性に優れた電解質材料として有望であることを見出しました[2]。しかし、このような材料は、剛直な骨格構造をしており、分子量を上げる事も困難であるため、ポリマー同士の絡み合いが起こりにくく、機械特性に優れた電解質膜を得る事が困難でした。

  図2  
  図2. 開発したアニオン伝導高分子PFFT-Cx (x = 6, 8, 10)の化学構造式及びPFFT-C6膜の外観  

 そこで、本研究ではC-H活性化重合法を用い、全芳香族高分子としては困難であった、20万前後の非常に高い重量平均分子量を有するアニオン伝導高分子電解質(Poly(fluorene-alt-tetrafluorophenylene)-trimethyl Ammonium: PFFT-Cx)を開発しました(図2)。この材料は、モノマー合成、重合、イオン官能基の導入の計3ステップで簡便に量産が可能であり、高い分子量を持つにも関わらず長鎖アルキル側鎖を導入することで溶解性に優れています。開発した電解質膜は、高分子量を有する事で、PEWEの標準膜であるナフィオンに匹敵する引っ張り強度(25-42 MPa)が得られました(図3)。

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  図3.開発したPFFT-Cx膜の応力ひずみ曲線  

また、高いイオン官能基密度を有する事から100 mS/cmを超える高いOH伝導度(70℃)を示し、80℃の8 M NaOH水溶液中における加速試験でも顕著な劣化が観察されなかったことから高いアルカリ耐久性を示しました[3]

 続いて、開発した側鎖の長さの異なる高分子電解質(PFFT-C6, PFFT-C8, PFFT-C10)を電解質膜及び触媒層アイオノマーに用いた膜電極複合体(MEA-C6, MEA-C8, MEA-C10)を作製し、SAWEとしての水電解性能及び耐久性を評価しました。図4aに作製したMEAの水電解性能(電流電圧曲線)を示します。これまでのSAWEの多くは膜電極接合体内部での十分なOH伝導を確保するために高濃度のアルカリ水溶液を供給して水電解を行っていますが、本研究で開発した高分子電解質PFFT-Cxは高いOH伝導性を有するために、純水を供給しても高い水電解性能が得られました。さらに、PFFT-Cxの側鎖を長くすることでOH伝導性が少し下がり、初期の電解性能はやや低下するものの、膜は膨潤しにくくなるため、機械的安定性が向上し、高い耐久性を示すことが分かりました(図4b)。特に、十分高いOH伝導性と機械的強度を両立するPFFT-C10を用いたMEA-C10は、80℃の高温運転下で150時間の長期にわたり安定な運転に成功しました。このように、純水を用いたSAWEにおいて、高い水電解性能と耐久性に同時に成功したのは本研究が世界初です[4]

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図4. PFFT-Cxを用いたMEAの(a) 80℃、純水供給SAWEの水電解性能及び(b) 200 mA/cm2の定電流密度運転での耐久性試験

 本研究で得られた結果は固体アルカリ水電解の実用化に大きく貢献できる成果で、さらなる評価や最適化を進めています。また今回開発した化学耐久性と機械強度に優れた高分子電解質材料は、他のエネルギーデバイスへの展開も期待できます。

参考文献

[1]  S. Miyanishi and T. Yamaguchi, Phys. Chem. Chem. Phys., 18, 12009-12023 (2016)
[2] H. P. R. Graha, S. Ando, S. Miyanishi and T. Yamaguchi, Chem. Commun., 54, 10820-10823 (2018)
[3] S. Miyanishi and T. Yamaguchi, Poly. Chem., 11, 3812-3820 (2020)
[4] R. Soni, S. Miyanishi, H. Kuroki and T. Yamaguchi, ACS Appl. Energy Mater., in press, DOI: 10.1021/acsaem.0c01938

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