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- 2024.07.25
- 宍戸・久保研究室
液晶高分子修飾ナノロッドによる色素ドープ液晶の非線形光学効果の増強
無機ナノ結晶はバルク状態とは異なるナノサイズ特有の物性を発現することが知られている。特にナノロッドは,その配向状態を制御することによって,異方性を活用した機能性材料への展開が期待できることから広く注目を集めている。また,ホスト物質に対してナノロッドを添加することによって,ホスト物質の機能向上をもたらすナノフィラーとしても重要な役割を果たしうる。こうしたナノロッドの持つ可能性を十分に引き出すためには,ナノロッドの凝集を抑制し良好な分散状態を保つこと,ホスト物質との親和性を与えることが必要である。これまでにわれわれは,液晶高分子によりナノロッド表面を修飾することで配向性に優れる液晶との親和性を与え,無機ナノロッドと液晶という異種物質を結びつける材料設計により,ナノロッドが液晶ホストと協同して配向することを示してきた[1,2]。
本稿では,液晶高分子修飾ナノロッドが液晶の非線形光学効果に基づく分子配向変化に与える効果を紹介する。非線形光学材料は,次世代の光学スイッチングや自己変調デバイスの開発において重要な役割を果たす。特に液晶は,その大きな分子異方性と光電場に対する応答性から,非線形光学材料として長く研究されている。しかし,液晶の分子再配向を引き起こすためには高い光強度が必要であり,光学デバイスの低閾値動作を妨げている。本研究では,ナノロッドをオリゴチオフェン色素ドープ液晶に導入し,分子配向変化をより低い閾値強度で実現することに成功した。色素ドープ液晶ホストに親和性を有する液晶高分子修飾ZnOナノロッドを添加することで,光照射による分子再配向の閾値強度を39%低減することを見出した[3]。
本研究で用いた化合物を図1に示す。既報に従い,平均直径7 nm,長さ50 nmのZnOナノロッドを合成し,表面開始原子移動ラジカル重合法により液晶高分子を成長させることで,液晶高分子修飾ZnOナノロッドを得た[1]。オリゴチオフェン色素(TR5)を低分子液晶(5CB)に少量添加した色素ドープ液晶をホストとし,高分子修飾ナノロッドを加えることで,高分子修飾ナノロッド含有色素ドープ液晶を調製した。示差走査熱量測定により熱力学物性を調べたところ,高分子修飾ナノロッド含有色素ドープ液晶は,単一の液晶相-等方相相転移を示したことから,高分子修飾ナノロッドがホストに相溶し,液晶性を不安定化しないことを確認した。調製した高分子修飾ナノロッド含有色素ドープ液晶を,垂直配向処理を施したガラスセルに混合物を封入し,偏光顕微鏡コノスコープ像観察,および,偏光紫外可視吸収スペクトルから,ナノロッドと液晶分子が垂直配向していることを確認した。
図1.用いた化合物の化学構造
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この液晶セルに,オリゴチオフェン色素が吸収を示す波長488 nmのレーザー光を液晶セルに照射し,光誘起分子配向変化挙動の評価を行った。光誘起分子再配向の閾値強度以下では,透過したレーザー光の形状はそのままであったのに対して,十分な強度のレーザー光を照射すると,同心円状のリングが形成された(図2)。このリング形成は,異方性分子の配向変化に起因する屈折率の変化に基づく自己収束と自己位相変調による典型的な非線形光学効果である。
図2. |
分子配向変化による回折リング形成の模式図:(a)入射光強度が低い場合,(b) 入射光強度が高い場合 (Reproduced from Ref. 3 with permission from the Royal Society of Chemistry)
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この回折リング形成を,入射光強度を変えながら観察したところ,入射光強度が高いほどリングの数は増加した。一つ目の回折リングが生じるのに必要な光強度を閾値と定義し,高分子修飾ナノロッドが閾値に与える影響を調べた。ポリマーグラフトZnOナノロッドを導入したシステムでは,分子の再配向に必要な閾値強度が顕著に低下した。特に,高分子修飾ZnOナノロッドを5 wt%含む系では閾値強度が12.0 W/cm²となり,純粋なオリゴチオフェンドープ液晶の19.7 W/cm²と比較して39%低減した(図3)。比較として,ナノロッド表面に修飾された液晶高分子と同じ重量分率のホモポリマーのみを加えた場合の閾値は15.2 W/cm²であり,閾値の低減は23%に留まった。このことから,ナノロッドの存在が閾値低下に大きな影響を与えることがわかった。この閾値低下は,高分子修飾ナノロッドの添加によるホスト液晶の配向秩序度が低下し,レーザー光の光電場に沿った配向変化が生じやすくなったためであると考えている。
図3. |
入射光強度と回折リング数の関係 (Reproduced from Ref. 3 with permission from the Royal Society of Chemistry)
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この成果は,光学スイッチング,自己変調,およびホログラフィックメモリを含む新しい光学デバイスの開発において重要な意味を持つ。さらに,将来的なミニチュア光学デバイスやレンズなど,高分子修飾ナノロッドを利用したシステムのさらなる展開が期待できる。
[1] | S. Kubo, R. Taguchi, S. Hadano, M. Narita, O. Watanabe, T. Iyoda, M. Nakagawa, ACS Appl. Mater. Interfaces 6, 811-818 (2014). |
[2] | K. Ogata, K. Matsumoto, Y. Kobayashi, S. Kubo, A. Shishido, Molecules, 27, 689 (2022). |
[3] | J. C. Mejia, K. Matsumoto, K. Ogata, D. Taguchi, K. Nakano, S. Kubo, A. Shishido, Mater. Adv., 3, 7531 (2022). |