東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所

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  • 2026.01.01
  • 山元・今岡研究室

サブナノ粒子が高機能ナノマテリアルを"創り分ける"

 昨今におけるナノテクノロジーの進歩は著しく、スマートフォンを始めとした量子デバイスや環境発電素材、次世代コンピューターなどの革新的な機能材料がこれまでに開発されてきた。このような材料開発において更なる性能向上や省エネルギー化は永遠の課題であり、これに対するアプローチとして今まさに「ナノより小さい世界(サブナノ)」が注目されている。サブナノ粒子は、わずか数個から数十個の原子で構成される極微小粒子であり、そのサイズはわずか1ナノメートル以下である。サブナノ粒子は単なる"小さいナノ粒子"と思われるかもしれないが、サブナノサイエンスにはナノ以上のサイズ領域で確立されてきた常識が通用しない。例えば、物質サイズがサブナノまで小さくなると、秩序立った結晶構造が喪失することでナノ粒子にも見られないような特異な幾何構造、電子状態、吸脱着特性などを示すようになる [1]。これにより、サブナノ粒子は従来の元素科学を覆すような物性や反応性を発現する[2,3]。さらに、高機能ナノ材料の緻密なデザインには、それよりもさらに小さいサブナノ粒子の応用が非常に有効である。ここでは、我々が実際にサブナノ粒子をベースとしてカーボンナノチューブ(CNT)を合成した研究例を紹介する[4]

多様な性質を示すナノサイズの炭素材料の中で、とくにCNTは高機能マテリアルの先駆けとして注目されている。CNTは、非常に軽量(アルミニウムの約半分)でありながら、鋼より優れた機械的強度や銅を上回る電気・熱伝導性を示す。これらの性質はCNTの直径や層数に依存することから、狙い通りのCNTを安価かつ再現性高く作る技術の確立が望まれているが、それは決して簡単な注文ではない。CNTの合成法として、これまでに化学気相成長法(CCVD)やアーク放電、レーザーアブレーションなどが用いられてきた。我々は、この中でCCVDのメカニズムに注目した。従来のCCVDでは、基板などの担体材料上に金属触媒粒子を固定化し、これが炭素源となるガス分子(炭化水素、アルコール、COなど)を分解するとともにCNTを成長させるのだが、我々の手段は一味違う。我々流の面白いポイントは、金属サブナノ粒子を"種(シード)"として担体上に撒き、①これが加熱時に凝集することで金属ナノ粒子として育ち、②この粒子が触媒となりCNTを成長させるというように、①と②の各工程が"同一反応中"で連続的に進行する点である。つまり、金属ナノ粒子をあらかじめ作って配置するのではなく、「反応中で勝手に所望のサイズのナノ触媒が形成し、そこから自然にCNTが生える」というわけである(図1)。

Fig.1
図1. サブナノ粒子をシードとしたカーボンナノチューブの成長スキーム.

 

 シードとなるサブナノ粒子の合成には樹状高分子デンドリマーを鋳型とする手法を採用した。このデンドリマーは、構造内にルイス塩基性を示すイミンユニットを計60個有していることから、錯形成反応によりルイス酸性の金属塩を分子内に最大60個集積することができる。このデンドリマー錯体を化学還元することにより、デンドリマー内で集積された原子同士が集まり、60原子で構成された粒径約1ナノメートルのサブナノ粒子を精密に生成することができる。後にも説明するが、この"精密さ"が成長するCNTの選択性に大きく寄与する。こうして得られたサブナノ粒子は、液中で放置しておくと即座に粒子同士の凝集が進行してしまうため、通常は酸化物やカーボンなどの担体材料に担持する。ここでは、金属元素としてコバルト(Co)を採用し、非晶質シリカに担持させた。実際に合成したサブナノ粒子については、原子分解能を有する走査型透過電子顕微鏡(STEM)による直接観察とエネルギー分散型X線分光(EDS)による元素同定が可能であり、シリカ上に粒径約1ナノメートルのCoサブナノ粒子が担持されている様子が確認できる(図2)。

Fig.2
図2. Coサブナノ粒子(シード)の(ASTEM観察結果,(B)合成スキーム,(C)粒径分布,(D)EDSスペクトル.

 

 続いて、合成したCoサブナノ粒子(シード)を用いて、CO/H2混合ガス流通CCVDによりCNT成長を行なった。反応前のCoシードは、シリカ上に固定化されているうえに表面は大気酸化されている。ここに高温の水素を流通させることにより、粒子表面を化学還元すると同時にCoシード-シリカ間の結合も切断され、Coシードはシリカ上を移動できるようになる。これにより粒子間で凝集が起こり、ナノサイズのCo粒子を形成する。もしCOが存在しない場合は粒子の凝集は止まらないが、CO存在下では規定のサイズまで凝集したCoナノ粒子が途中でCNT成長触媒として作用し始める。この際、Coナノ粒子上で分解したCO由来のC原子が粒子下へと拡散され、やがて粒子がシリカから脱離して粒子下へと定常的にCNTを成長させる(図3)。したがって、成長するCNTの直径は、触媒となる金属粒子の粒径に強く依存する。この成長メカニズムはtip-growthとして知られており、成長中では粒子間の凝集がほぼ起きないため、直径を一定に保ちながらCNTを成長させることができる。これらのことから、CNTの精密設計にはその触媒となるCoナノ粒子の粒径(Coシードの凝集度)の制御が重要であることがわかる。Co-担体間の相互作用が弱すぎるとCoシードは必要以上に凝集してしまい、逆に強すぎるとそもそもCoナノ粒子を形成できないためにCNTを成長させることができない。本研究では、最適な担体材料を発見・適用することで、ここの絶妙なバランスを保っている。これにより、常圧下でただ反応温度と時間を変えるだけで、得られるCNTの直径制御を実現した。前駆体であるCoシードが精密に作られているからこそ、形成するCoナノ粒子の粒径やCNTの直径も制御されるのである。

Fig.2
図3. ACoシードを用いてCCVD法(600℃,1時間)で成長させたCNTSTEM像.(B)各温度で1時間CCVDを行った後のCoナノ粒子の粒径とCNTの直径.(C600℃のCCVDにおけるCNTの成長効率.(DCoシードによるCNT成長のメカニズム.

 

 しかし、はたしてシードはサブナノサイズである必要があるのか、単原子でもよいのではないか。結論から言うと、このCNT成長プロセスでは、シードはサブナノ粒子が最適である。Co単原子の場合、シリカ担体との結合が強固であるため、水素還元によるナノ触媒の生成にはより高温条件が必要となる。結果的に、シードがサブナノサイズの場合では最低で500℃でCNTが成長したのに対して、単原子の場合では600℃でさえも成長は進行せず、より高温条件では成長するCNTの直径分布が広がってしまう(図4A)。

 上記のサブナノシード法では直径5ナノメートル以上のCNTが合成可能であるが、成長条件(ガス組成、担体、反応温度など)を工夫することで、サブナノ粒子を凝集させずそのまま触媒として機能させることも可能である。実際に、我々は直径約1nmの極細CNTの成長も可能であることを確認している(図4B)。

Fig.2
図4. ACoシードがサブナノ粒子・単原子である場合の1時間CCVDにおけるCNT成長効率.(BCoサブナノ粒子から成長したCNTSTEM像.

 これらの結果は、サブナノサイズのシード粒子を精密に設計し、それを乗せる担体材料を最適化することで、多様なナノマテリアルの自在なデザインが可能であることを示している。CNTに限らず多くのナノマテリアルは、その大きさや構造に依存して性質を著しく変化させるが、上記のようなワンストップで完結する非常に簡便な手法で合成が可能になれば製造プロセスの効率化に繋がる。たった数原子の粒子から生まれる高機能ナノマテリアル。その起点は小さいものだが、やがては次世代エレクトロニクス、人工筋肉、AIデバイス、量子情報デバイス―こうした未来技術の創成に直結する。わずか1ナノメートルという極微小スケール"サブナノ"が、広大なスケールで革新的な未来を我々に見せてくれる日も遠くない。

【参考文献】
[1] K. Yamamoto, T. Imaoka, Acc. Chem. Res. 2014, 47, 1127‒1136.
[2] T. Tsukamoto, T. Kambe, T. Imaoka, K. Yamamoto, Nat. Rev. Chem. 2021, 5, 338‒347.
[3] T. Moriai, T. Tsukamoto, M. Tanabe, T. Kambe, K. Yamamoto, Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 23051‒23055.
[4] T. Moriai, T. Tsukamoto, K. Fukuhara, T. Imaoka, T. Kambe, K. Yamamoto, Nanoscale Adv. 2025, 7, 346‒353.

 

  • 【問い合わせ先】
  • 東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所
  • 助教  森合 達也 Email: moriai.t.aa@m.titech.ac.jp
  • 教授  山元 公寿 Email: yamamoto@res.titech.ac.jp
  • 准教授 今岡 享稔 Email: timaoka@res.titech.ac.jp
  • 助教  吉田 将隆 Email: yoshida.m.bo@m.titech.ac.jp
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