東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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最新の研究

  • 2017.12.18
  • 小坂田・竹内研究室

スチレンの不斉重合による
光学活性ポリスチレンの直接合成

 光学活性高分子は自然界に多数存在し、材料としての可能性から、その人工合成が強く望まれています。スチレンはプロキラルな分子であり、立体規則性を制御して重合させることにより光学活性となると期待されますが、ポリスチレンの繰り返し単位の立体化学を全て同じに制御したアイソタクチックポリスチレンは、高分子鎖内に対称面をもつため一般的に光学不活性になることが知られていました(図1)1)

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 従来、光学活性ポリスチレンの合成法としては、光学活性な置換基で連結されたビススチレンの重合を経る多段階の方法2)や、光学活性な錯体触媒を用いたヘキセンを連鎖移動剤とするスチレンのオリゴマー化による方法3)が知られているのみで、スチレンの単独重合による光学活性ポリスチレンの直接的な合成例は全く知られていませんでした。

 我々の研究室では、光学活性なシクロデキストリン骨格からなるHUGPHOS配位子を有するPd錯体(図2)が一酸化炭素雰囲気下でスチレンの重合を引き起こすことを見出しました4)。得られたポリスチレンの立体規則性は高くはありませんが、光学活性であることを明らかにしました。重合には一酸化炭素圧が大きな影響を及ぼします。すなわち、1 atmの一酸化炭素雰囲気下では光学活性ポリスチレンが得られますが、さらに加圧下で反応を行うと、光学不活性なポリスチレンが生成します(図3)。また、一酸化炭素が存在しない場合には、連鎖移動が頻繁に起こり、高重合体は得られません。

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 1 atmの一酸化炭素雰囲気下で得られた光学活性ポリスチレンの繰り返し構造について解析を行ったところ、一酸化炭素加圧下で得られた光学不活性なポリスチレンに比べて、三種類の三連子構造のうち、ラセモ-メソ連子の割合が増加することが分かりました。また、一酸化炭素雰囲気下でのPd錯体についての詳細な検討の結果、一酸化炭素はPd中心に弱く配位しており、重合中に可逆的に一酸化炭素の配位・解離が起こることが明らかとなりました。一酸化炭素がPd中心に配位した錯体は、比較的連鎖移動を起こしにくいものの、生長反応の立体選択的は低く、一方で、一酸化炭素が解離した錯体は、エナンチオ選択的な生長反応を起こすものの、連鎖移動を起こしやすいと考えられます。適度な一酸化炭素圧の条件下では、可逆的な一酸化炭素の配位・解離が起こることにより、エナンチオ選択性の制御されたラセモ−メソ三連子を含むポリスチレンが得られたと考えられます(図4)。すなわち、パラジウム錯体の動的な挙動が光学活性高分子生成の鍵になっていることが示唆されます。このような動的な挙動を示す光学活性錯体を利用することで、様々なプロキラルモノマーから光学活性高分子を合成することが可能になると期待されます。

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 本研究成果は、フランス・ストラスブール大学のMatthieu Jouffroy博士、Dominique Armspach教授、Dominique Matt教授との共同研究によるものです。

 1) Y. Okamoto, T. Nakano, Chem. Rev. 1994, 94, 349-372.
 2) G. Wulff, P. K. Dhal, Angew. Chem. Int. Ed. 1989, 28, 196-198.
 3) K. Beckerle, R. Manivannan, B. Lian, G.-J. M. Meppelder, G. Raabe, T. P. Spaniol, H. Ebeling, F. Pelascini, R. Mülhaupt, J. Okuda, Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 4790-4793.
 4) M. Jouffroy, D. Armspach, D. Matt, K. Osakada, D. Takeuchi, Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 8367-8370.

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