東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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  • 2016.09.01
  • 山口・黒木研究室

高活性・高耐久性な固体高分子形燃料電池カソード触媒
~中空多孔構造を有するカーボンフリーPtFeナノ粒子連結触媒~

 固体高分子形燃料電池(PEFC)は、低温でも理論エネルギー変換効率が高く、小型で軽量な発電デバイスとして注目されており、家庭用の燃料電池・エネファームに引き続き燃料電池自動車が販売されるなど、PEFC開発のフェーズは実証研究から普及初期へと移行しています。しかし、普及拡大へ向けて、依然としてコストや耐久性などの課題は残っています。特に、酸素を水へ還元するカソード触媒層の性能・耐久性の向上が必要です。PEFCを用いた現状の燃料電池自動車では約50 gのPtが使われていますが、酸素還元触媒の活性向上により、Pt量を1/10程度にまで低減できれば、排ガス触媒として従来車で用いられている白金族元素の使用量と同程度になり、Pt使用に伴うコストや資源量等の課題は解決できる計算となります。また、PEFCの起動停止に伴い水素流路に酸素が混入することでカソード触媒層に高電圧が印加され、従来触媒(図1a)の担体として用いられてきたカーボンが腐食することが耐久性の課題として挙げられています。

本研究では、酸素還元活性とカーボンの耐久性に関する課題を全て解決しうる触媒材料として、PtFe合金ナノ粒子が融着してネットワーク構造を形成するPtFeナノ粒子連結触媒(図1b)について研究を行いました。PtFeナノ粒子連結触媒は金属ナノ粒子が融着してネットワーク構造を形成しているため、カーボン担体へ担持させなくてもナノサイズの結晶子径を維持できることから、カーボンフリーの触媒層形成が可能であると考え、PEFCのカソード触媒として研究を行いました。

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図1 固体高分子形燃料電池の酸素還元触媒として用いる
(a)従来触媒と(b)PtFeナノ粒子連結触媒

PtFeナノ粒子連結触媒は、ポリマー修飾シリカ微粒子へ金属ナノ粒子を析出させ、エタノールを溶媒とした超臨界処理により金属ナノ粒子を融着させることで合成しました。得られた触媒は、結晶子径が約6-7 nm、孔径が約10 nmの中空多孔体(図2)でした。

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図2 PtFeナノ粒子連結触媒のTEM像1)

酸素還元活性を酸溶液中で測定したところ、市販のPt 触媒(Pt/C)と比べて約9倍高い表面比活性が得られました(図3)。これはカソード触媒の目標値である従来触媒の10倍の活性に迫る値です。PtFeナノ粒子をカーボンブラックに高分散に担持した触媒(PtFe/C)の表面比活性は、市販Pt 触媒の約3倍であったことから、本触媒の活性向上の要因はPtとFeの合金化の効果だけでは説明できず、ナノ粒子が連結した構造が寄与している可能性が示唆されました1)。合金ナノ粒子連結触媒の特異な構造が高活性化の要因であることは、合成時の超臨界処理温度を変化させた検討や、連結触媒内部の状態を変化させた検討でも示唆されており、現在、高活性化の要因についてさらなる評価を進めています。

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図3 PtFeナノ粒子連結触媒の酸性溶液中での酸素還元表面比活性1)

また、PtFeナノ粒子連結触媒を用いて実際の発電セルである膜電極接合体(MEA)を作製しました。PtFeナノ粒子連結触媒は従来のPt触媒と構造が大きく異なり、触媒層構造の最適化も必要となることから、触媒層中のプロトン伝導性を担うアイオノマーの分散方法についての検討も行いました。作成したMEAの断面SEM像を図4aに示します。従来の触媒層で体積割合の大半を占めるカーボン担体を用いていないために、同程度のPt量を有する従来触媒層と比較して、1/5~1/10の厚みの極薄触媒層が形成できました1)。発電試験を行ったところ、ナノ粒子連結触媒の表面に薄く均一なアイオノマー層を形成した場合には、良好な発電特性が得られました2)。さらに、カーボン担体の腐食を加速させ、市販触媒の性能が大幅に劣化する起動停止試験において、Pt由来の電気化学的活性表面積を維持できることが示されました1)(図4b)。

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図4 PtFeナノ粒子連結触媒を用いて作製した膜電極接合体の
(a)断面SEM像と(b)起動停止耐久性評価結果1)

以上の結果、PtFeナノ粒子連結触媒はPEFCのカソード触媒として、高活性・高耐久性であることが示されました。今後は、ナノ粒子連結触媒の構造特異性による高活性化の要因解明を進めるとともに、触媒層の極薄化に伴う物質移動特性の改善について検討を進め、セル特性の更なる高性能化を図ります。

1) T. Tamaki,H. Kuroki, S. Ogura, T. Fuchigami, Y. Kitamoto, T. Yamaguchi, Energy Environ. Sci., 8, 3545-3549 (2015).
2) H. Kuroki, T. Tamaki, T. Yamaguchi, J. Electrochem. Soc., 163, F927-F932 (2016).

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