東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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  • 2015.04.08

今、最も注目されているゼオライト、「CHA型ゼオライト」の新しい合成手法の開発

合成コスト削減や合成プロセスのグリーン化といった観点から、有機構造規定剤を使用しないゼオライト合成に注目が集まっています。我々は非晶質アルミノケイ酸塩ゲルを原料に、有機構造規定剤を使用せずにCHA型ゼオライトを合成することに成功しました。

 「ゼオライト」は,多孔質結晶性アルミノケイ酸塩の総称として用いられており,それら以外で同様な構造をもつリン酸塩系多孔質結晶などの「ゼオライト類似物質」と呼ばれるものもあります。ゼオライトは分子サイズレベルの均一な細孔を有していますが,通常,結晶粒子径は数μmの大きさであり,外表面積は全表面積の数%程度にすぎません.このため,活性点の大部分は細孔内に存在し,反応物や生成物の大きさがセオライト細孔と同程度の場合,細孔と分子形状の幾何学的関係により反応の速度や選択性が影響を受けます.特定の分子の拡散や特定の反応の進行がこのような立体的因子によって阻害される結果,発現する反応の選択性は「形状選択性」と呼ばれており、ゼオライトの重要な特徴の一つです。現時点でゼオライトの構造は200種類を越えています[1]。

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Fig. 1 Properties of zeolite.

 ゼオライトの合成原料には、通常シリカ源(ケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、アルコキシドなど)とAl源(水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルコキシドなど)、鉱化剤(アルカリ金属の水酸化物、フッ化物)および水が含まれます。Si、Alはゼオライト骨格を構成する成分であり、鉱化剤はこれら金属成分を水中に溶解させる役割があります。また鉱化剤に含まれるカチオンは、最終的に骨格の負電荷を打ち消す役割を果たします。

 Si/Al比の大きな高シリカゼオライトを合成する場合にはかさ高い有機化合物が加えられます。一般には有機アミンや第4級アンモニウム塩が用いられています。近年、嵩高い有機分子のデザインによる、大細孔ゼオライトあるいは超大細孔ゼオライトの合成が盛んに行われています。このような有機化合物は、メソポーラスシリカを合成する際に用いられる界面活性剤と同義の「鋳型分子(template)」とよばれています。しかしながら、有機物の分子構造と生成する細孔の構造・サイズとには1:1の関係が必ずしも見られません。そこで、構造形成に利用される有機物に対してテンプレートではなく有機構造規定剤(Organic structure-directing agent, OSDA)という用語も使われています。

 分子設計したOSDAの利用によりゼオライトの構造・組成が多様化した一方で、OSDAはそれ自体がゼオライト合成の主要なコスト源であるのみならず、有機物を高温で焼成除去するためのエネルギーをも必要とします。さらに含窒素化合物の焼成により発生するNOxの処理も必要になります。合成コスト削減や合成プロセスのグリーン化といった観点から、有機構造規定剤を使用しないゼオライト合成に注目が集まっています。中でも有機構造規定剤を使用しない*BEA型ゼオライトの合成手法の開発は画期的なものです[2-4]。我々もRTH型と呼ばれるゼオライトを有機構造規定剤を使用しないで合成する手法を開発してきました[5]。

 CHA型ゼオライトは今もっとも注目されているゼオライトの一つです。CHA型構造は3次元の細孔構造を有し、細孔径は約0.38 nm(メタンの分子サイズとほぼ同程度)です。内部に大きなケージを有しています。アルミノケイ酸塩型でかつAl含有量の少ないSSZ-13やシリコアルミノリン酸塩型であるSAPO-34はメタノールからエチレンやプロピレンを製造するプロセス(Methanol To Olefins; MTO反応)用の固体酸触媒として優れています。ガス/水蒸気の分離剤としても注目されています。また、Cuを導入したSSZ-13やSAPO-34はNOX浄化用NH3-SCR触媒として脚光を浴びており、ディーゼル車の排ガス規制強化に対応すべく、現在世界中で盛んに研究が行われています。

 CHA型アルミノケイ酸塩型ゼオライトにはチャバザイト、SSZ-13があります。チャバザイトは天然鉱物として存在しています。また、FAU型ゼオライトを原料にして合成する手法も開発されています。この場合、安価に合成できる利点もありますが、Al含有量が高い(Si/Al比は2~3程度)ため、耐熱性や耐酸性が低く、触媒寿命が短いという問題があります。一方、SSZ-13はSi/Al比が10-400まで合成することができ、安定性にも優れ、高い触媒性能を有します。しかしながらSSZ-13の合成にはN,N,N-trimethyladamantammonium hydroxide (TMAdaOH) をOSDAとして用いる必要があり、合成コストが高いことが問題になっています[6]。TMAdaOHの使用量を削減した合成手法の開発や、代替OSDAの開発なども行われてきています[7-9]。我々はOSDAを用いず、安価に、かつAl含有量を制御したCHA型アルミノケイ酸塩ゼオライトの合成手法の開発に成功しました[10]。

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Fig. 2 Structure of CHA-type zeolite

 有機構造規定剤を用いて合成するいわゆるSSZ-13(本稿では[Al]-SSZ-13)手法、我々が開発した有機構造規定剤を使用しないCHA型アルミノケイ酸塩ゼオライト(OSDA-free [Al]-CHA)の合成手法をFig. 3に示します。OSDA-free合成法と従来法の合成法を比較すると、大きな違いとしてはOSDAを使用の有無、種結晶(シード)の使用の有無、水熱合成時の温度と時間です。OSDA-freeでは合成温度は上がりますが、合成時間を短くすることができます。その他には、OSDA-free合成法ではNaOHとKOHの両方を用いますが、[Al]-SSZ-13では用いません。また、OSDA-free合成法では水溶性のアルミン酸ナトリウムを用いていますが、[Al]-SSZ-13では不溶性の水酸化アルミニウムを用いるといった違いもあります。

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Fig. 3 Synthesis procedures of [Al]-SSZ-13 and
OSDA-free [Al]-CHA.

 Fig. 4に種結晶でもある[Al]-SSZ-13、種結晶をシリカベースで20wt%添加して合成したOSDA-free [Al]-CHAの粉末X線回折(XRD)パターンを示します。比較としてOSDA-free条件だが種結晶を添加しなかった場合の生成物(Fig. 4 (c))も示します。OSDA-free [Al]-CHA の回折強度は[Al]-SSZ-13と比べて低いものの、単相でCHA型構造が得られました。一方、OSDA-free合成だが種結晶を添加しなかった場合、PHI型と呼ばれる8員環ゼオライトが得られました。

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Fig. 4 XRD patterns of (a) [Al]-SSZ-13 and the products synthesized (b) with the calcined [Al]-SSZ-13 as a seed (OSDA-free [Al]-CHA) and (c) without seeds in the absence of OSDA, respectively.

 OSDA-free [Al]-CHAの合成の秘訣の一つが種結晶の使用です。そこで、種結晶の添加量について検討しました。種結晶として[Al]-SSZ-13 (Si/Al = 7.7)を用い、シリカベースで最大で20 wt%種結晶を加えました。Fig. 5に種結晶の添加量が異なる生成物のXRDパターンを示します。なお、水熱処理条件は170℃、1日と統一しています。まず種結晶を添加しない場合、CHA型ではなくPHI型ゼオライトが得られました。種結晶の添加量を徐々に増やしていくにつれてCHA型に起因する回折ピークが明瞭に観察できるようになりました。20 wt%の種結晶を添加した場合、OSDA-free [Al]-CHAが収率36%で得られることが分りました。この生成物のSi/Al比は3.2でした。なお、種結晶を添加しない場合、結晶化時間を延ばしてもCHA型ゼオライトを得ることは出来ませんでした。また、種結晶の添加量が多いほど、結晶化に必要な水熱処理時間が短くなることも分かっています。すなわち、有機構造規定剤を用いない合成では種結晶の添加は必須であることがわかりました。

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Fig. 5 XRD patterns of the products synthesized by using calcined [Al]-SSZ-13 (seed) of (a) 0 wt% (yield: 31%), (b) 2 wt% (yield: 32%), (c) 5 wt% (yield: 31%), (d) 10 wt% (yield: 28%), and (e) 20 wt% (yield: 36%) as a seed in the absence of OSDAs.

 OSDA-free [Al]-CHAの合成では母ゲル(非晶質アルミノケイ酸塩溶液)に種結晶を添加した後、170℃で水熱処理を行います。合成機構の解明を目的に、水熱処理時間を変え、結晶化過程をXRD測定により検討しました。水熱処理1時間後、種結晶由来のCHA型構造に起因する回折ピークは消滅していました。母ゲルは濃厚なアルカリ溶液であるため、CHA型構造を有するゼオライト骨格のほとんどが溶液中に溶解していることが分ります。我々は種結晶のCHA型構造が完全に崩壊し非晶質ゲルになったのでなく、XRDでは評価できないくらい小さいパーツ(CHA型ゼオライトの骨格構造の一部を有するレベル)に分解している状態だと考えています。3時間後、CHA型構造に起因する回折ピークが観測され、さらに結晶化時間を長くしていくと、結晶化が促進されていることが分ります。24時間で回折ピーク強度は最大になり、その後は変化しませんでした。しかしながら、結晶化を長くしすぎると(~40時間)、CHA型構造に加え、MOR型構造に起因する回折ピークが観測されました。種結晶存在下のOSDA-free条件での合成機構として、種結晶として添加した[Al]-SSZ-13は"小さいパーツ"に分解し、これらのパーツから再度CHA型ゼオライトが組み上がると考えています。種結晶の添加が必須な理由もこのような合成機構と深く関連していると考えています。

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Fig. 6 XRD patterns of the products synthesized in the absence of OSDAs with the crystallization time varied.

 水熱処理時間を変え、結晶化過程を観察した際の粒子形態の変化をFig. 7に示します。 まず、種結晶として添加した[Al]-SSZ-13 は大きさ約0.2μmキュービックな粒子形態をしています。水熱処理1時間後、キュービックな粒子は観測されませんでした。3時間後結晶成長が始まっていることが示唆され、7時間後には0.07 - 0.15 μmのキュービックな粒子が円盤状に集まったものが観測されました。合成チャバザイトのSEM像も比較のために載せていますが、OSDA-free条件で合成したものは[Al]-SSZ-13よりも粒子が小さく、合成チャバザイトと同様の形態を有していることが分りました。

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Fig. 7 FE-SEM images of the products synthesized in the absence of OSDAs with the crystallization time varied.

 ここまでで合成できたOSDA-free [Al]-CHAのSi/Al比は3.2であり、[Al]-SSZ-13と比較するとAlをかなり多く含んでいます。そこで、Si/Al比を向上させる検討を行いました。Al3+をシリカ骨格(SiO4)4-に導入する場合、電荷補償のために1価の対カチオン(一般にはNa+やK+)が必須です。今までの方法では対カチオンとしてNa+に加え、CHA型骨格構築を補助する役割があるといわれるK+を用いることで、結晶化時間の短縮や、結晶性の向上がはかられてきました。そこで、対カチオンとして同じくCHA型骨格構築を補助する役割があると報告されているCs+を用いました。この理由として、Cs+はK+より大きいため、細孔内に入れる量が少なくなり、結果としてAl3+の導入量を減らすことができると考えたからです。また、ゲルの塩基量を減らすことでもAlの導入量を減らすことができると考えました。そこで、KOHからCsOHに変え、全体の塩基量の最適化をはかることで、Si/Al比が5.2のものを合成することに成功しました。

 最後に、OSDA-free [Al]-CHA (Si/Al = 3.2)、OSDA-free [Al]-CHA (Si/Al = 5.2)、[Al]-SSZ-13 (Si/Al = 7.7)を固体酸触媒として用いMTO反応を行い、触媒性能を検討しました。 OSDA-free [Al]-CHAでは反応初期においてメタノール転化率は100%に達しました。OSDA-free [Al]-CHA (Si/Al = 3.2)では90分以降転化率が減少していきましたが、OSDA-free [Al]-CHA (Si/Al = 5.2)では120分まで100%を維持していることが分りました。この場合、プロピレンの選択率は最高で40%に達し、また、エチレンの選択率は最高で35%に達しました。[Al]-SSZ-13 (Si/Al = 7.7)と比較すると触媒寿命は短いですが、今後さらにAl導入量を減らす(Si/Al比を高くする)ことが出来れば、さらなる触媒性能の向上が期待できます。

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Fig. 8 MTO reactions over [Al]-SSZ-13 and OSDA-free [Al]-CHA catalysts.

 我々は非晶質アルミノケイ酸塩ゲルを原料に、有機構造規定剤を使用せずにCHA型ゼオライトを合成することに成功しました。OSDA-free合成手法の開発には、既報の原料組成や水熱合成条件の検討が重要になります。このような検討はゼオライトの結晶化機構、ならびにOSDAの役割の解明につながるもと考えています。本成果は、OSDAの使用が前提となっていたゼオライトについてもOSDAフリー合成ができる可能性を示唆するものです。研究レベルでは有望視されていたものの、合成コストがネックとなり工業化が見送られていたゼオライトの実用化を可能にし、結果として新たな化学プロセスが構築されることを期待しています。

参考文献

[1] International Zeolite Association (URL: http://www.iza-structure.org/)
[2] B. Xie, J. Song, L. Ren, J. Li, F.-S. Xiao, Chem. Mater., 20 (2008) 4533-4535.
[3] Y. Kamimura, S. Tanahashi, K. Itabashi, A. Sugawara, T. Wakihara, A. Shimojima, T. Okubo, J. Phys.Chem. C, 115 (2011) 744-750.
[4] K. Itabashi, Y. Kamimura, K. Iyoki, A. Shimojima, T. Okubo, J. Am. Chem. Soc. 134 (2012) 11542-11549.
[5] T. Yokoi, M. Yoshioka, H. Imai, T. Tatsumi, Angew. Chem. Int. Ed, 48 (2009) 9884-9887.
[6] S.I. Zones, U.S. Patent 4 544 538 (1985).
[7] S.I. Zones, R.A. van Nordstand, Zeolites 8 (1988) 166-174.
[8] S.I. Zones, J. Chem. Soc., Faraday Trans. 87 (1991) 3709-3716.
[9] M. Itakura, T. Inoue, A. Takahashi, T. Fujitani, Y. Oumi, T. Sano, Chem. Lett. 37 (2008) 908-909.
[10] H. Imai, N. Hayashida, T. Yokoi, T. Tatsumi, Microporous and Mesoporous Materials, 196 (2014) 341-348

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