東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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最新の研究

  • 2015.08.03
  • 山元・今岡研究室

世界初の塗布型有機EL素子の開発に成功
~単一成分塗布で熱活性化遅延蛍光を示すデンドリマー~

 有機EL素子(ディスプレイ)は実用化から15年以上が経ち、スマートフォンのディスプレイなどとして我々の身近にもある。しかし、テレビなどの大型ディスプレイとしては成功しておらず、小型ディスプレイ市場でも液晶ディスプレイとの激しい価格競争が行われている。実用化されている有機EL素子に使用されている有機材料の薄膜は全て真空蒸着によって製膜されている。これは、安定してアモルファス(非晶質)な薄膜が得られることが大きな理由であるがコストは高くなってしまう。一方で真空プロセスを使用せず、有機材料の溶液からスピンコート、インクジェット、印刷などの方法で製膜出来れば真に低コストで大面積に適用可能な有機素子の製造プロセスが確立できるはずである。そこで、溶液から製膜しても結晶化しにくい高分子系材料が開発されてきたが分子量分布があること、不純物を含むこと、積層が困難であることなどから実用化には至っていない。

 有機EL素子の発光材料は開発当初は蛍光材料が使用され、その後リン光材料が使用されるようになった。これは電界励起によって生じる励起子の25%が一重項励起子で、75%が三重項励起子であることによる(Fig.1)。つまり、蛍光材料を使用すると25%の励起子しか使用できないがリン光材料を使用すれば一重項から三重項への系間交差も存在するために100%の内部量子効率を達成可能である。しかし、リン光材料は主にイリジウムや白金といったレアメタルを含む錯体に限られており、高価で材料設計の自由度が低いことが問題であった。2009年に九州大学の安達千波矢らは一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギー差(⊿EST)が小さく、室温の熱エネルギーで三重項から一重項へと逆系間交差が起きることで遅延蛍光を発する材料を有機EL素子の発光層として適用した1。こうした材料は熱活性化遅延蛍光(TADF)材料と呼ばれ、その後、内部量子効率がほぼ100%に達する材料とデバイスの開発に成功している2。しかしながら、こうした材料は蒸着可能な低分子に限られており、低分子材料を溶液から塗布製膜する研究は僅かに行われているものの高分子材料は皆無である。

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Fig.1 Basic structure of OLEDs, and three types of emitting materials.

 

 当研究室では樹状カルバゾール(カルバゾールデンドリマー)が良好な溶解性や製膜性を有することを活かして有機EL用のホール輸送材料としての展開を行ってきた3。また、カルバゾールデンドリマーが自発的に分極しており、外層にHOMOが、内層にLUMOが局在化したような電子構造を有していることを明らかとしている4。前述のTADF材料は設計指針として分子内のHOMOとLUMOを空間的に分離することが重要であると言われており、カルバゾールデンドリマーはこの設計指針と合致する。さらに、HOMOとLUMOを分離するためカルバゾールデンドリマーのコアにアクセプターであるトリアジン骨格を導入した新規なデンドリマーを開発した(Fig.2a)。このデンドリマーはホスト材料にドープせずに単独で成膜した場合にも10-50%という比較的高い発光量子収率を示すことが明らかとなった。また、発光寿命の温度依存性より熱活性化遅延蛍光を含む発光であることも明らかとした。このデンドリマー単独の薄膜をスピンコート法により成膜して発光層とした有機EL素子を作製し特性を評価した。G3TAZを用いた際に最大の外部量子効率が3.4%に達し、計算された理論限界効率との比較より一重項からの寄与だけでは説明できないことから三重項励起子を使用したTADFの寄与による発光を示していることが明らかとなった(Fig.2b,c)。これは、世界初の塗布型、単一物質のTADF材料であり、今後はデバイス構造・分子構造の最適化によってさらなる高効率化が可能になるものと期待される5(Fig.3)。

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Fig. 2 a) Structure, HOMO, and LUMO orbital of triazine core carbazole dendrimer (G3TAZ). b) Dependence of the luminescence on the current density. c) Dependence of the external quantum efficiency on the current density. The OLED devices structure for b), and c) was ITO/PEDOT:PSS(30 nm)/GnTAZ(35 nm)/TPBI(40 nm)/Ca(10 nm)/Al.

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Fig.3 Photo of an OLED device with G2TAZ as the emitting layer.

本研究はナノマクロ物質・デバイス・システム創製アライアンスの支援を受けて九州大学先導物質科学研究所 藤田克彦 准教授、松岡健一 助教との共同研究として行われました。



1 A. Endo, M. Ogasawara, A. Takahashi, D. Yokoyama, Y. Kato, C. Adachi, Adv. Mater., 2009, 21, 4802-4906.
2 H. Uoyama, K. Goushi, K. Shizu, H. Nomura, C. Adachi, Nature, 2012, 492, 234 - 238.
3 a) A. Kimoto, J.-S. Cho, M. Higuchi, K. Yamamoto, Macromolecules, 2004, 37, 5531-5537. b) A. Kimoto, J.-S. Cho, K. Ito, D. Aoki, T. Miyake, K. Yamamoto, Macromol. Rapid Commun. 2005, 26, 597-601. c) K. Albrecht, Y. Kasai, A. Kimoto, K. Yamamoto, Macromolecules, 2008, 41, 3793-3800.
4 K. Albrecht, K. Yamamoto, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 2244-2251.
5
K. Albrecht, K. Matsuoka, K. Fujita, K. Yamamoto, Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 5677-5682.

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