東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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最新の研究

  • 2016.10.03
  • 野村研究室

メタノールからの低級オレフィン合成反応用の新しいゼオライト触媒の開発
~水からプラスチックを作る:「人工光合成」で化石燃料不要の化学品製造実現へ~

1. はじめに

現在,種々の化学品の基礎原料であるエチレン、プロピレン等の低級オレフィンは主にナフサのクラッキングにより生産されています。将来的な石油資源の枯渇の問題を鑑みれば,石油資源以外の原料からプロピレンを製造するプロセスの確立は急務となっています.その中でも,メタノールを原料としてプロピレンやエチレンを得るMethanol To Olefins(MTO)反応は注目を集めています1-3).原料となるメタノールは,天然ガスや石炭から得られるCOあるいはCO2とH2を反応させることによって得られるため、石油とは異なる資源から低級のオレフィンが製造されることになります。MTO反応の触媒として酸型のゼオライトが良好な性能を示すことが既に広く知られており、多くのゼオライトが本反応の触媒として開発されてきています4-10)。酸素8員環(小細孔)ゼオライトのCHA型ゼオライト4)と酸素10員環(中細孔)ゼオライトのMFI型ゼオライト5)はメタノールからエチレン、プロピレンを選択的に製造する工業触媒の候補として有力視されています。特に2010年には中国において世界ではじめてMTO反応触媒プロセスの商業運転が開始されました。

しかしながら低級オレフィンをとりまく環境は徐々に変わりつつあります。近年、中東におけるエタンクラッキングや北米におけるシェールガスの利用により、エチレンの価格は低下の傾向にあります。ただこれらの反応ではエチレン以外はほとんど得ることはできないため、これらのプロセスの競争力がナフサクラッキングに比して高まれば、プロピレンやブテン、芳香族は不足することになります。とりわけプロピレン、ブテン類の需要は増加傾向にあります。そのため最近ではエチレンの選択率を低く抑え、かつプロピレン及びブテン類を高選択的に得られる触媒の開発が望まれるようになっています11)。それゆえにエチレンの選択率が高いことが特徴の一つであった小細孔ゼオライトは現在の需要にそぐわないものとなってきました。一方、MFI型ゼオライトはもともとメタノールからガソリンを製造する触媒として開発された経緯もあり1)、寿命は非常に長いものの低級オレフィンの選択率が十分ではありません。そのためこれらの触媒に代わる新たな触媒の開発が求められています。この要求に答えうる材料として、私たちは3次元大細孔ゼオライトに注目しました。実際、3次元大細孔からなるBetaはMTO触媒としても研究がなされており12)、最近では脱AlしたMCM-68がエチレン選択率の低い触媒となることが報告されています13)。我々は大細孔?大細孔?中細孔というユニークな細孔構造を有するCON型ゼオライトに注目し研究を進めてきました14-16)

CON型ゼオライトは[001]方向および[010]方向にそれぞれ酸素12員環(大細孔)、酸素10員環(中細孔)の貫通孔が通り、さらに[100]方向に細孔と細孔をつなぐように12員環が存在する3次元の細孔構造となっており、触媒をはじめとした工業的な利用が期待されうる構造を有した材料です(図1)。このゼオライトは骨格にSi/B = 25程度のBを含んだボロシリケート([B]-CON)として得られ、酸処理による脱Bののち、ポスト処理によりAlを骨格に導入することで酸触媒として機能することが報告されていました。しかしながら、直接アルミノシリケートを合成する方法はいまだ開発されていませんでした14, 17)。そこで私たちは[B]-CONの合成ゲル中にAl源を加え、CON型アルミノシリケート[Al,B]-CON-Dの直接合成に挑みました。

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図1 [001]方向から見たCON型ゼオライトの骨格構造

2. [Al,B]-CON-Dの直接合成

まずB源の代わりにAl源を加えて[Al]-CONを直接合成することが可能か検討しました。しかしながらB非共存では150 oC、21間の結晶化ののちも単相でCON相は得られずアモルファスがかなり混在しているものしか得られませんでした。[B]-CONの合成においても仕込みB量が減少するとCONの結晶化が難しくなっていくことから、CON相の結晶化にBが重要な役割を果たしていることが示唆されました。

そこで、B源を仕込みSi/B = 25で共存させた条件下において150 oC、21日間の結晶化によりCON型ゼオライト([Al,B]-CON-D)を直接合成することに成功しました。合成した試料のXRD測定結果を図2に示します。仕込みSi/Al比70では150 oC、21日間結晶化を行った後も全く結晶化せず(図2-(a))、仕込みSi/Al比80でも若干CON相が現れる程度でしたが(図2-(b))、仕込みSi/Al比100以上のハイシリカな組成においてはCON相が単相で得られ、そのAl組成はほぼ仕込み通りでした(図2-(c)-(e))。さらに、回転下で結晶化を行うことも可能です。FE-SEM観察の結果から静置条件で合成した試料は2-4 μm程度、回転下で合成した試料はそれよりも小さい粒子が凝集して数μm程度の粒子となっており、静置条件で合成するよりも微粒な結晶が得られることも分かりました(図3)。また、比較として[B]-CONを原体として既報のポスト合成法によりアルミノシリケートの合成を行いました([Al]-CON-P)。

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    図2 合成した試料のXRDパターン
       仕込みSi/Al比 (a) 70, (b) 80, (c) 100, (d) 150, (e) 200

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    図3 調製法の異なるAl含有CON型ゼオライトのSEMイメージ
       (a) [Al,B]-CON-D (静置, Si/B = 25, Si/Al = 196),
       (b) [Al,B]-CON-D (回転, Si/Al = 26, Si/Al = 134),
       (c) [Al]-CON-P (Si/Al = 87)

調製方法の異なるCON型アルミノシリケートゼオライトの酸性質を調べるためNH3-TPDを測定しました。触媒の酸点とアンモニアの化学吸着に由来するとされるいわゆるh-ピークの温度は直接合成静置品、直接合成回転品、ポスト合成品がそれぞれ330、328、324 oCであり、ポスト合成品の酸強度が若干弱いことが分かりました。なお、これらは酸強度が比較的弱いとされるBetaよりも低い温度であり、CON型アルミノシリケートゼオライトはかなり酸強度の弱い酸点を有する触媒であると示唆されました。なお酸量はいずれも0.06 mmol/gと見積もられ、導入されたAl量は異なるものの酸量は同等でした。

3. [Al,B]-CON-DのMTO反応特性

調製方法の異なるCON型アルミノシリケートゼオライトを用いてMTO反応を行いました(図4)。 ポスト合成品である[Al]-CON-Pでは反応直後はメタノール転化率99 %、プロピレン選択率50 %の性能を示すものの、転化率は時間の経過に伴い低下、また流通時間が5 h頃からはジメチルエーテル(DME)の生成も確認され、触媒の失活が速やかに起こりました。対して 直接法により合成した[Al,B]-CON-Dでは転化率の低下は非常に緩やかであり、静置条件で合成した触媒では流通時間16 hまで活性の低下は見られませんでした。また、プロピレン選択率とブテン選択率がそれぞれ60 %弱、20 %強と高く、一方エチレンの選択率は5 %以下であり、昨今の需要に合った生成物分布を示す、ユニークな触媒特性を示すことが分かりました。さらに回転条件で結晶化させた触媒では流通時間24 hまでほとんど活性の低下は見られず、DMEの生成もほとんど確認されませんでした。また、比較としてSi/Al = 75のBeta(参照触媒JRC-HB150)とSi/Al = 149のZSM-5に関してもMTO反応を行いましたが、どちらも初期活性は高いものの、流通時間6 h程度で活性が低下しました。このことから直接合成品である [Al,B]-CON-Dは長寿命かつ高いプロピレン・ブテン選択率を示す触媒であることが分かりました。

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   図4 調製法の異なるAl含有CON型ゼオライトによるMTO反応結果
      (a) [Al,B]-CON-D (静置, Si/B = 25, Si/Al = 196),
      (b) [Al,B]-CON-D (回転, Si/B = 26, Si/Al = 134),
      (c) [Al]-CON-P (Si/Al = 87)
     反応条件: 50 mg catalyst, 500 oC,
         12.5 % MeOH diluted in He, W/F = 6.6 g・h/mol

4. 調製法の違いによる触媒活性の違いの要因

直接法で合成した[Al,B]-CON-Dはポスト処理により合成した試料よりも長い寿命を示し、とりわけ回転下で合成したものが最も長寿命でした。酸量は静置、回転にかかわらず同量であり、回転下で合成した触媒の寿命が長かった原因の一つに粒子サイズの違いが考えられます。

また、今回調製したCON型ゼオライト内のAlの存在する環境を調べるため27Al MAS NMR測定を行いました(図5)。[Al,B]-CON-Dに関しては0 ppm付近に6配位Al種に由来するピークが確認され、導入されたAlが若干骨格外に存在していることが確認されたがその強度は弱く、ほとんどが4配位種として存在していることが分かりました。4配位Al種に由来する境域においては[Al,B]-CON-D、[Al]-CON-Pともに58 ppm付近にメインピークが現れましたが、[Al,B]-CON-Dにのみ55 ppm付近にショルダーピークが確認され、[Al]-CON-PとはAlの存在環境が異なっていることが示唆されました。先に述べたとおりCON型ゼオライトには大細孔と中細孔が存在しています。直接合成により合成する場合、規則的にAlが導入されると考えられます。一方、ポスト処理の場合、水和したAl種が欠陥に作用すると考えられますが、このAl種のサイズが6Å程度であることから、それゆえに10員環にはアクセスしづらく、12員環周りにAlが優先的に導入されている可能性が考えらます。Zonesらは、CON型ゼオライトと同様12員環と10員環を併せ持つ[B]-SSZ-57にポスト処理によりAlを導入する場合、10員環にはAlが導入されないと報告しています18, 19)。ポスト合成法では広い空間に酸点があり、結果として重質な成分ができやすくコーキングが起こり短い寿命につながった可能性があります。

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図5 調製法の異なるAl含有CON型ゼオライトの27Al-MAS-NMRスペクトル
      (a) [Al,B]-CON-D (静置, Si/B = 25, Si/Al = 196),
      (b) [Al,B]-CON-D (回転, Si/B = 26, Si/Al = 134) and
      (c) [Al]-CON-P (Si/Al = 87)

さらに詳細にAlの環境を調査するため27Al MQMAS NMR測定を行いました(図6)。いずれの試料においてもAlのクロスセクションがCS軸に沿って現れていることから6配位および5配位の骨格外Al種はほとんど存在しないことが分かりました。個々のスペクトルを確認すると、静置条件で合成した[Al,B]-CON-Dはaおよびbのクロスセクション、回転下で合成した[Al,B]-CON-Dはそれに加えてcのクロスセクションが確認できるのに対し、[Al]-CON-Pではaのクロスセクションのみ確認されました。これらの種がどういったAl種であるかは今後の研究を待つ必要があります。現段階では27Al MQMAS NMRにおいてcに由来するAl種と小さい粒子径を持つことがMTO反応に対して長寿命なAl含有CON型ゼオライト触媒となることが示唆されました。

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図6 調製法の異なるAl含有CON型ゼオライトの27Al-MQMAS-NMRスペクトル
   (a) [Al,B]-CON-D (静置, Si/B = 25, Si/Al = 196),
   (b) [Al,B]-CON-D (回転, Si/B = 26, Si/Al = 134),
   (c) [Al]-CON-P (Si/Al = 87)

5. おわりに

 Alを骨格に含有したCON型アルミノシリケートゼオライトを直接法で初めて合成することに成功しました。しかも調製したゼオライトはMTO反応において寿命が長く、かつ低エチレン選択率、高プロピレン選択率を示し、現在の需要に合った性能を示すことが分かりました [20]。現在、私たちは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)が主導する人工光合成プロジェクトに参画しています [21]。このプロジェクトでは、光触媒を用い太陽エネルギーにより水から生成した"ソーラー水素"と工場等から排出される"CO2"由来のCOによってメタノールを製造し、MTO反応により、低級オレフィンの製造を目指しています(図7)。すなわち、水からプラスチックを作る~「人工光合成」で化石燃料不要の化学品製造実現へ~に取組んでいます。

2016_10_Fig.7_yokoi.jpg   図7 NEDOプロジェクトである「二酸化炭素原料化基幹化学品製造
      プロセス技術開発」(人工光合成プロジェクト)の概要

参考文献

[1] U. Olsbye, S. Svelle, M. Bjorgen, P. Beato, T. V. W. Janssens, F. Joensen, S. Bordiga, K. P. Lillerud, Angew. Chem. Int. Ed. 51, 5810-5831 (2012)
[2] P. Tian, Y. Wei, M. Ye, Z. Liu, ACS Catal. 5, 1922-1938 (2015)
[3] J. S. Plotkin, Catal. Today 106, 10-14 (2005)
[4] J. Q. Chen, A. Bozzano, B. Glover, T. Fuglerud, T. Kvisle, Catal. Today 106, 103-107 (2005)
[5] C. D. Chang, C. T.-W. Chu, R. F. Socha, J. Catal. 86, 289-296 (1984)
[6] Q. Zhu, J. N. Kondo, T. Tatsumi, S. Inagaki, R. Ohnuma, Y. Kubota, Y. Shimodaira, H. Kobayashi, K. Domen, 111, 5409-5415 (2007)
[7] Q. Zhu, J. N. Kondo, R. Ohnuma, Y. Kubota, M. Yamaguchi, T. Tatsumi, Micropor. Mesopor. Mater. 112, 153-161 (2008)
[8] Q. Zhu, M. Hinode, T. Yokoi, J. N. Kondo, Y. Kubota, T. Tatsumi, Micropor. Mesopor. Mater. 116, 253-257 (2008)
[9] Q. Zhu, M. Hinode, T. Yokoi, M. Yoshioka, J. N. Kondo, T. Tatsumi, Catal. Commun. 10, 447-450 (2009)
[10] T. Yokoi, M. Yoshioka, H. Imai, T. Tatsumi, Angew. Chem. Int. Ed. 48, 9884-9887 (2009)
[11] 室井 髙城, 新しいプロピレン製造プロセス -シェールガス・天然ガス革命への対応技術-, S & T出版 (2013)
[12] S. Svelle, U. Olsbye, F. Joensen, M. Bjorgen, J. Phys. Chem. C 111, 17981-17984 (2007)
[13] S. Park, Y. Watanabe, Y. Nishita, T. Fukuoka, S. Inagaki, Y. Kubota, J. Catal. 319, 265-273 (2014)
[14] R. F. Lobo, M. E. Davis, J. Am. Chem. Soc. 117, 3766-3779 (1995)
[15] R. F. Lobo, M. Pan, I. Chen, H. X. Li, R. C. Medrud, S. I. Zones, P. A. Crozier, M. E. Davis, Science 262, 1543-1546 (1993)
[16] R. F. Lobo, M. Pan, I. Chen, R. C. Medrud, S. I. Zones, P. A. Crozier, M. E. Davis, J. Phys. Chem. 98, 12040-12052 (1994)
[17] T. Mathew, S. P. Elangovan, T. Yokoi, T. Tatsumi, M. Ogura, Y. Kubota, A. Shimojima, T. Okubo, Micropor. Mesopor. Mater. 129, 126-135 (2010)
[18] S. I. Zones, C. Y. Chen, A. Benin, S. J. Hwang, J. Catal. 308, 213-225 (2013)
[19] S. I. Zones, A. Benin, S. J. Hwang, D. Xie, S. Elomari, M.-F. Hsieh, J. Am. Chem. Soc. 136, 1462-1471 (2014)
[20] M. Yoshioka, T. Yokoi, T. Tatsumi, ACS Catalysis, 5, 4268-4275 (2015),
[21] NEDO webページより URL: http://www.nedo.go.jp/activities/EV_00296.html

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