東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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  • 2014.11.24

二層型複核錯体触媒を用いるエチレン・オレフィンの重合および共重合

 エチレンやオレフィンの重合は学術上も実用面でも重要ですが、現在の研究開発の対象はほとんど錯体触媒です。錯体中に金属中心を一つだけ有する単核金属錯体 (図1A) に加えて、近年、複数の金属中心をもつ複核金属錯体を触媒とするオレフィン重合反応が興味を集めています。これまで報告された、様々な複核錯体触媒によるエチレンやオレフィンの重合反応には、単核錯体触媒に比べて触媒活性の向上や、生成高分子の分子量の向上が見いだされた例もあります。しかし、従来報告されている複核錯体の多くは二つの単核錯体同士を柔軟なスペーサーを介して連結した構造を有しており(図1B)、実際の金属間の協同効果についてはよく分かっていませんでした。また、単核錯体では不可能な重合を複核錯体を用いて達成した例もありませんでした。

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 我々の研究室では、二つの単核錯体同士を二本のスペーサーで固定化した二層型複核錯体をデザインしました(図1C)。この二層型複核錯体では金属同士が近接した位置に固定化されており、金属間の協同効果がより効率よく働くと期待され、それを触媒として用いたエチレンやオレフィンの重合、共重合について行ってきました。 これまでに、図2に示した三種類の二層型複核錯体の合成に成功しています。二層型フェノキシイミン複核ニッケル錯体 (I) についてはX線結晶構造解析を行っており、そのニッケル間距離は4.73 Åであり、従来知られている類似の複核錯体の中で最も短い金属間距離をもっています(図3)。

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 二層型フェノキシイミン複核錯体 (I) は、単核錯体に比べて高いエチレン重合活性を示し、より高分子量のポリエチレンを生成しました1)。さらに、エチレンと1,6-ヘプタジエン、1,7-オクタジエンとの共重合も可能であり、ジエンが環化を伴ってポリマー中に導入された含環構造高分子が生成しました(図3)。特に、1,7-オクタジエンとの共重合では、二本の高分子鎖がジエンを介して架橋した、ハシゴ型構造の高分子が生成しました。一方、エチレンと1,5-ヘキサジエンや1-ヘキセンとの反応、単核錯体を用いたエチレンと非共役ジエンとの反応では、コモノマーはポリマー中に導入されません。すなわち、複核錯体に対し適切な非共役ジエンを用いることが、効率よいコモノマーの取り込みの鍵になっており、これは触媒分子中の二つのニッケルがコモノマーをうまく固定しているためと考えられます。複核錯体はエチレンとブテノエートやペンテノエートとの共重合も引き起こし、それらの極性モノマーが導入された共重合体を生成します。

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 単核ジイミンパラジウム錯体によるエチレンとアクリレートとの共重合では、アクリレート由来の繰り返し単位が分岐末端に導入された多分岐ポリエチレンが得られることが知られています。一方で、複核パラジウム錯体 (II) を用いると、アクリレートユニットが主鎖上に導入された分岐ポリマーが得られることが明らかとなりました(図4)2)。このような共重合体の報告例はなく、複核錯体によってはじめて得られました。この共重合体はフィルムを形成し、単核錯体により得られる共重合体が非晶性で室温ではオイル状であることと対照的です。

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 複核鉄錯体 (III) は、80 - 120 °Cでもエチレン重合に活性を示します。対応する単核錯体を用いた場合には、反応時間10分程度で失活が起こることから、複核錯体の高い熱安定性が明らかとなりました(図5)3)。このような触媒の高い熱安定性は、上記のニッケル錯体やパラジウム錯体による重合でも観測されており、環状配位子をもつ二層型複核錯体に共通の特徴である可能性があります。

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1) D. Takeuchi, Y. Chiba, S. Takano, K. Osakada, Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 12536-12540.

2) S. Takano, D. Takeuchi, K. Osakada, N. Akamatsu, A. Shishido,  Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 9246-9250.

3) D. Takeuchi, S. Takano, Y. Takeuchi, K. Osakada,  Organometallics 2014, 33, 5316-5323.

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