東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

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最新の研究

  • 2017.08.01
  • 穐田・吉沢研究室

ピーナッツ型分子できた!

 近年、動物の「うごき」や植物の「かたち」を模倣した分子の効率的な合成法の開発が注目されている。しかしながら、既存の合成化学の手法では、花や果実、種子などの植物に見られる複雑な立体構造を再現することは困難であった。 これらの魅力的な「かたち」の中でも、ピーナッツは、ダンベル型のからに2つのたねを内包したユニークなコアシェル構造からなる(図1左)。 このような階層構造を、ナノメートルサイズで合成した例はない。 今回、矢崎研究員、Chand教授、吉沢准教授らは、配位結合とπ-スタッキング相互作用を同時に利用することで、ピーナッツ型分子(図1右)の合成に成功したので紹介する[1]

201708Fig01.png

図1.ピーナッツの種と殻とピーナッツ型分子の設計図.

 まず、ブロモアントラセンを出発原料にして、根岸カップリングと鈴木-宮浦カップリングを含む6段階の反応で、3つのピリジル基を有するW型の有機配位子1を新規に合成した(図2上)。 この配位子は、芳香環同士の立体障害で、10種類の構造異性体を持つ(図2下)。

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図2.W型配位子1とその10種類の構造異性体(Rはメトキシ基に置換)

  次に、配位子1の異性体混合物とPd(II)イオンを4:3の比率でDMSOに加え、その混合溶液を加熱攪拌した。その結果、Pd(II)イオンの配位結合を駆動力として配位子はW型構造に収束し、分子ダブルカプセルが定量的に生成した(図3上)。 この構造は最終的に、X線結晶構造解析(リガクとの共同研究成果)により決定した。結晶構造解析の結果、ダブルカプセルは、8つのアントラセン環に囲まれた約1nmの孤立空間を2つ有するダンベル型構造であることが明らかになった(図3下)。

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図3.分子ダブルカプセルとその結晶構造(正面および側面;Rは省略)

 分子ダブルカプセルとフラーレンを混合することで、ピーナッツ型分子の合成に成功した。 の溶液にフラーレンC60 を加えて、 加熱攪拌した。 その結果、の中央のPd(II)イオンが脱離し、アントラセン環とC60π-スタッキング相互作用により、2分子のC60 が内包されたピーナツ型分子が定量的に形成した(図4上;合成ルート1)。その構造の理論計算から、ダンベル型の殻内に2つのC60 が近接したコアシェル構造であることが判明した(図4下)。外殻の横幅と縦幅はそれぞれ、約3および2 nmであった。

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図4.分子ピーナッツの合成(ルート1および2)とその計算構造

 このピーナッツ型分子は、分子ダブルカプセルを経由せず、配位子とPd(II)イオンとC60の混合でも合成できた(図4上;合成ルート2)。また、高次フラーレンのC70 や金属内包フラーレンのSc3N@C80 を用いても、同様の構造体が得られた。これらのコアシェル構造体は、室温(高温でも)、空気中で安定であった。

 最後に、分子ダブルカプセルのもう1つの性質として、形状の異なる2種類の分子をヘテロ内包できることが明らかになった。水系溶媒中、球状のジアマンタンと平面状のフェナントレンをに添加した結果、疎水効果により、1つの空間に1つの球状分子と、もう1つの空間に2つの平面状分子が選択的に取り込まれた(図5)。この現象は、連結した2つの空間の協働効果により、分子内包を介して、片方の空間情報が隣の空間に伝達されたことを意味する。人工系では前例のない分子内包システムを達成した。

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図5.分子ダブルカプセルによる選択的ヘテロ内包とその計算構造

  以上のように、 性質の異なる2種類の分子間相互作用を活用することで、 ピーナッツの複雑な階層構造を ナノサイズで合成することに成功した。今後は、多種類の相互作用をさらに巧みに使い分けることで、自然界のより複雑な「かたち」を分子レベルで自在合成できる手法を開発していきたい[2-6]

参考文献

[1] K. Yazaki, M. Akita, S. Prusty, D. K. Chand, T. Kikuchi, H. Sato, M. Yoshizawa*, Nature Commun., 2017, 8, 15914(リンク: https://www.nature.com/articles/ncomms15914).

その他の最近の研究成果

[2] S. Matsuno, M. Yamashina, Y. Sei, M. Akita, A. Kuzume, K. Yamamoto, M. Yoshizawa*, Nature Commun., 2017, 8, in press.
[3] 開閉可能な分子チューブ:K. Kurihara, K. Yazaki, M. Akita, M. Yoshizawa*, Angew. Chem. Int. Ed., 2017, 56, in press.
[4] 幅広い捕捉能を有する分子ピンセット:K. Jono, A. Suzuki, M. Akita, K. Albrecht, K. Yamamoto, M. Yoshizawa*, Angew. Chem. Int. Ed., 2017, 56, 3570-3574.
[5] pH応答性の動的分子カプセル:M. Kishimoto, K. Kondo, M. Akita, M. Yoshizawa*, Chem. Commun., 2017, 53, 1425-1428.
[6] 芳香環の殻を持つナノ構造体(総説):M. Yoshizawa*, M. Yamashina, Chem. Lett., 2017, 46, 163-171.

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