東京工業大学
科学技術創成研究院
化学生命科学研究所
物質理工学院
応用化学系
(応用化学コース)

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研究内容  

芳香環およびペプチド空間を活用したナノ道具の開発
                   
 はじめに
 


 吉沢・澤田研では、超分子化学を基盤に、水中で活用できる “便利なナノ道具” の開発を目指して、「芳香環空間」に関する研究を行っています。生体内では、水中、温和な条件で、高選択な分子識別や高効率な分子変換が達成されています。この優れた機能は、タンパク質からなる “生体ナノ空間” で実現しています。そこで私達は、生体システムに匹敵する「ナノ空間」を人工的に作製することで、合成化学や材料化学、物性化学、分析化学などの分野での新展開を目指しています。さらに最近、「ペプチド空間」に関する研究もスタートしました。剛直な"合成パーツ"と柔軟な"生体パーツ"の両方を活用した新空間化学に挑戦しています。

研究分野:超分子化学・有機化学・錯体化学・トポロジー化学・ペプチド化学・光化学

キーワード:超分子・ナノ空間・水・分子認識・光機能・分子カプセル/チューブ・両親媒性分子・色素・生体分子・バイオセンサー・ペプチド

 芳香環空間のデザイン
 


 私達の研究室では、複数の芳香環パネルに囲まれたナノ空間を有する新規な三次元構造体の自在構築を目指しています。その戦略として、単純で合成容易な “湾曲型” の芳香環パーツを設計し、これらを異なる結合や相互作用で組織化することで、前例のない「芳香環ナノ空間」を有する水溶性の分子カプセルやチューブを作製しています。


 分子物性のチューニング
 


 芳香環ナノ空間内では、通常の溶液や固体状態と異なる分子物性が発現しています。例えば、高反応性のラジカル開始剤をナノ空間に内包することで、光遮蔽効果や圧縮効果による顕著な安定化が観測されました。また、色素分子のペア内包や混合により、化学修飾を必要としない蛍光色制御に成功しています。さらに、連結したナノ空間で、フラーレンダイマーの特異な電気化学挙動などを探索しています。


 生体分子のセンシング
 


 効果的な分子間相互作用により、芳香環ナノ空間内での生体分子の選択的な識別(=センシング)を目指しています。これまでに私達のナノ空間を活用することで、水中・室温で天然糖の混合物から二糖のスクロースを100%の選択性で捕捉できました。また、代表的な男性ホルモンのテストステロンの識別を達成すると共に、その高感度な蛍光検出に成功しました。飲料に含まれるカフェインや生分解性の乳酸オリゴマーも識別できることから、様々な生体必須分子の“高性能センシング”が期待できます。


 分子反応性のコントロール
 


 私達は “ナノフラスコ” としての機能も開拓しています。実際に、芳香環ナノ空間内に2分子の環状硫黄分子を内包し、光照射することで、1分子の大環状分子の選択的合成に成功しました。また、水中・室温での高効率な触媒反応を達成しています。水に不溶なマンガン錯体を芳香環ナノ空間に内包した水溶性カプセル触媒で、高回転数の酸化反応が進行しました。水を媒体とした環境調和型の合成や触媒反応の開発を目指しています。


 分子トポロジー合成
 


 金属で連結されたペプチド鎖は、リングが何度も絡まった高次トポロジー構造を作り出す性質があることを見出しました。トリグリシン配列と銀イオンを混合すると、「トーラス結び目」と呼ばれるドーナツ状の絡まり構造が精密に組み上がります。また、プロリン残基を多く含む3〜5残基の配列を用いると、「ポリヘドラルリンク」と呼ばれる多面体状の絡まり構造が生成します。極微の世界において、高度な結び目や編み込み構造の構築に挑戦しています。


 人工タンパク質合成
 


 自然界に見られる高度なペプチド構造は、ポリペプチド鎖に対してフォールディング(折り畳まれること)と自己集合(3次元的に配置されること)の両過程がうまく働くことで形成しています。私たちは、ペプチド断片と金属イオンを混ぜるだけでもこの原理が働くことを見出してきました。例えば、わずか8残基のペプチド配列と亜鉛を混ぜるだけで、βバレル構造が組み上がります。アミノ酸側鎖に囲まれたナノ空間の機能化により、人工酵素の構築を目指しています。

     

 
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