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光合成生物のレドックス制御ネットワークの包括的理解

レドックス(酸化還元)反応は、生体内の様々な代謝系と生理現象に関わっています。生物の細胞機能は、数多くのタンパク質が協調的に働くことによって成し遂げられており、その調節にもレドックスが深く関与しています。特に、光合成生物では光合成電子伝達系と炭酸同化系がレドックスカスケードで密接に結ばれています。さらに、光合成による酸素発生も細胞内レドックス状態の変動を招く大きな要因であり、細胞内は常にレドックスバランスを精密に保っていると予想されます。私たちの研究室では、原核光合成細菌であるシアノバクテリア、単細胞真核藻類であるクラミドモナス、そして、私たちに身近に存在する高等植物といった様々な光合成生物を用いて、レドックス制御システムの実態を明らかにすることを目指して研究を続けています。

光合成生物のレドックス制御ネットワーク

タンパク質のレドックス制御に重要な役割を果たしているのは、チオレドキシン(Trx)と呼ばれる分子量約12000の小さなタンパク質です。Trxは、活性中心に一対のシステインペアを持ち、標的タンパク質との間でジチオール‐ジスルフィド交換反応を行うことによって、その標的タンパク質の酵素活性を制御しています。光合成生物においては、光合成電子伝達系からTrxを介して標的タンパク質に還元力を渡すことによって、光に応答した機能調節を可能にしていると理解されています。しかし、近年の光合成生物のゲノム情報の蓄積やTrx標的タンパク質スクリーニング法の開発~プロテオミクス技術の進展により、光合成生物の細胞内には様々なTrxサブタイプやTrx様タンパク質、および多岐にわたるTrx標的タンパク質が存在することが明らかとなってきました。これらはすなわち、光合成生物は複雑に還元力経路が分岐した“レドックス制御ネットワーク”を持っていることを示しています。

レドックス制御ネットワークはどのように構成されているのでしょうか?また、その生物学的な意義は何なのでしょうか?私たちは、生化学・プロテオミクス・逆遺伝学・生理学といった研究手法を複合的に用い、レドックス制御ネットワークの分子基盤から生物学的重要性まで幅広く理解することを目指しています。

■関連する最近の研究成果

  • Motohashi K, Kondoh A, Stumpp MT, Hisabori T.
    Comprehensive survey of proteins targeted by chloroplast thioredoxin.
    Proc Natl Acad Sci U S A. 2001 Sep 25;98(20):11224-9. Epub 2001 Sep 11.
  • Yoshida K, Hara S, Hisabori T.
    Thioredoxin Selectivity for Thiol-based Redox Regulation of Target Proteins in Chloroplasts.
    J Biol Chem. 2015 Jun 5;290(23):14278-88. doi: 10.1074/jbc.M115.647545. Epub 2015 Apr 15.

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嫌気実験系を用いたレドックス制御システムの解析

 分子状酸素(O2)は呼吸をはじめ様々な代謝系において不可欠です。その一方で、O2はそれ自体が強力な酸化剤であり、蛋白質の酸化を引き起こす要因となります。最近、様々な研究から、生物の細胞内部は大気と比べ低酸素状態であることがわかってきました。しかし、従来の生化学的解析法では、Trxや標的蛋白質が大気中の酸素に曝されるため、そのレドックス状態が酸化側へと傾いた条件下で多くの解析が行われています。

 私たちは、嫌気チャンバー(写真)を利用して無酸素下で実験を行い、酸素の影響を排除して生体内のレドックス制御システムを解明することを目指しています。さらに、細胞内の酸素濃度をセンスする蛋白質プローブの開発を行い、生きている光合成生物の細胞内の酸素濃度を測定しようと試みています。生細胞内部と同じ酸素濃度下でレドックス制御の生化学的解析ができるようになれば、生体内のレドックス制御システムを正確に描き出すことが可能になるかもしれません。

■関連する最近の研究成果

  • Nomata J, Maeda M, Isu A, Inoue K, Hisabori T.
    Involvement of thioredoxin on the scaffold activity of NifU in heterocyst cells of the diazotrophic cyanobacterium Anabaena sp. strain PCC 7120.
    J Biochem. 2015 May 6. pii: mvv046. [Epub ahead of print]

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